人間は生物学上、自分がコントロールしている時は満足感という内なる報酬を受け、そうでない時は不安という報いを受けるようにできている。
解説
他人に影響を与えるためには、「相手をコントロールしたい」という衝動を押さえ込み、相手が主体性を必要としていることを理解することである。人は自分の主体性が失われると思ったら抵抗するし、主体性が強まると考えたら、その経験を受け入れるものだからだ。
この原理をわかりやすく示しているのが税金だ。納税はなぜ苦痛なのか。それは、選択の余地がないからだ。寄付の場合、どこに寄付するかは自分で決められるが、税についてはその自由がない。
実際、ある実験では、税金の使い道について意思表示する機会を与えただけで、税金を支払う率が上がった。人は選択肢を与えられるとコントロール感が増し、意欲が高まるのだ。
では、なぜ私たちはコントロールを好むのか?
自分自身で選んだ結果は、押しつけられたものより自分の好みに合うことが多い。だから私たちは、自分でコントロールできる環境の方が、高い満足度をもたらすことを知っている。
そして選択の経験を繰り返すうちに、私たちの心の中では、選択そのものが報酬となったのだ。神経学者マウリチオ・デルガードの研究チームは、次のように結論づけている。「選択の機会が与えられることがわかると人は喜びを感じ、脳の報酬系である腹側線条体が活性化する」。
だから、もしマネージャーが部下に影響を及ぼしたければ、彼らをコントロールしたいという衝動を乗り越え、代わりに選択肢を与えねばならない。例えば、社内規定の作成に従業員を参加させれば、意欲の促進につながる可能性がある。
編集部のコメント
2人の人物が意見を戦わせている。一方が明白な事実や数字を示して相手の誤りを指摘するが、提示された側はそれをまったく意に介さず、議論は平行線をたどる――。
このような場面を、テレビやSNSなどで目撃したことがある人は多いのではないでしょうか。
なぜ、事実を伝えても相手の心は動かないのでしょうか? どうすれば、他者をうまく説得し、動かすことができるのでしょう?
その疑問に答えてくれるのが、本書『事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学』です。
著者のターリ・シャーロットは、イギリスの名門ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの教授です。彼女は、認知神経科学の専門家として、私たちが考えや行動を変える時に脳内で何が起きているのかを徹底調査。その成果を踏まえ、より効果的な説得の技法を伝授するのがこの本です。
本書は2017年の刊行直後から、著者が拠点を置くイギリスとアメリカで好評を博し、タイムズ紙やフォーブス誌など多数の新聞・雑誌の年間ベストブックにノミネートされました。翌2018年にはイギリス心理学会賞を受賞しています。
自分の意見がなかなか伝わらない、科学的な視点から説得の技術を学びたいと思う人にとって、大いに参考になる1冊です。




