未来を創造するには、まず過去を意識的に忘れ去らなくてはならない。
解説
未来は決して過去の延長ではない。
新しい産業構造が古い産業構造にとって代わるのである。競争も現在とまったく違うものになる。従って、未来のための競争に勝ち抜くには、従来の戦略を見直さなければならない。
未来のための競争は、従来の産業の境界線を変えたり新しい市場を創造したりする技術、ライフスタイルの変化などについて、競合他社より優れた識別眼を獲得する競争である。
言い換えれば、未来の市場機会がどれくらいの規模になるか、どのような構造になるかを見極めることを競う。要するに、未来をイメージする競争なのだ。
経営幹部の頭の中には、産業の構造、競争相手、顧客、技術などに関する先入観や思い込みがある。
未来に向けて基本戦略を練り直すには、こうした思い込みを考え直さなければならない。未来に到達するために、会社は自ら過去を捨て去る勇気を持たなければならない。
だが、何も過去をすべて捨て去る必要はない。明らかにしなければならないのは、次の2点である。
・未来に到達するために、過去の何を、会社の強みとして活用すべきか?
・もはや役に立たない過去の遺物は何か?
編集部のコメント
『コア・コンピタンス経営 未来への競争戦略』は、自社の中核となる企業力 ―― 「コア・コンピタンス」を見極めて強化することが、未来に備える上で重要であることを指摘したビジネス書です。
2人の著者はいずれも、戦略論の分野でコンピタンス理論の提唱者として知られています。ゲイリー・ハメル氏は、ロンドン・ビジネススクールの教授として教壇に立つかたわら、モトローラやフォードなどのコンサルタントとして活躍。また、ミシガン大学ビジネススクール教授のC・K・プラハラード氏も、イーストマン・コダック、AT&T、ハネウェルなど数々の国際企業でコンサルタントを務めています。
原著は1994年にアメリカで出版され、大きな反響を呼びました。日本では1995年に邦訳が刊行され、多くの読者を集めています。訳者の一條和生氏は、「文庫版への訳者あとがき」で、この本が日本でベストセラーとなった理由について次のように解説します。
1つは、バブル崩壊後、事業の再構築を迫られていた日本企業にとって、本書のメッセージが改革の貴重な指針となったこと。もう1つは、事例の多くが、ソニーやホンダ、シャープなど1970年代、80年代に発展を遂げた企業から得られており、改めて日本企業の競争優位性の源を伝えていること。こうした点が、多くの読者を獲得することにつながったのではないかと述べています。
『コア・コンピタンス経営』は、目先の利益を追うのではなく、未来の市場で勝利するための方法を説いた、ビジネス書の古典ともいえる書です。戦略構築や企業変革に携わる経営者や管理職の方にお薦めします。