私と同様、多くのデンマーク人が高率の税金をさしたる不満もなく納税しているようです。教育費や医療費、働けなくなった際には生活保護費の支給など、税が還元されてくることがはっきり実感できるから、高い課税率にも負担感がないのでしょう。(中略)
社会福祉にかかる財源は、所得税(最高税率59%)や消費税25%を含めた間接税で賄っています。(中略)
このような高負担・高福祉の政策によって国家財政が運営されていますが、2006年の政府予算を見ると歳入5154億クローネ(12.9兆円)に対し、歳出4614億クローネ(11.5兆円)で、1.3兆円の黒字になっています。
解説
世界銀行が発表した「全世界の統治指数」によると、デンマークは、世界で最も民主主義が進んでいる国の1つだという。
この調査における民主主義の指標の1つは、「国家の運営に国民が直接参加できる仕組みができていること」。換言すれば、国民の意思によって国家が運営され、国民と政府の間の意思疎通が良い国ほど民主主義が進んでいるということだ。
例えば、ある介護センターの介護内容が悪いというニュースが報道されたとする。すると翌日には、社会福祉大臣が何らかのコメント、打開策を国民に示さねばならない。マスコミが国民に問題を提示したのだから、国の責任者はそれに対して解決策を求められた、と受け止めるのだ。
デンマークでは、国民と行政、政治が各々の立場から問題改善のために努力する、という相互関係ができている。国民の国政に対する意識も高い。1953年に現行の憲法が施行されて以来、国会議員選出選挙の投票率が80%を切ったことはない。
編集部のコメント
デンマークは、ユトランド半島(ドイツ北部に位置する、北海とバルト海を分かつ半島)と、その東方の島々から成る北欧の国です。
人口約600万人という小国ながら、その文化は多彩で、古い歴史と高い文化教育水準を誇っています。童話作家のハンス・クリスチャン・アンデルセン、家具デザイナーのアルネ・ヤコブセンなどの出身国として、ご存じの方もきっと多いことでしょう。
また、デンマークは、医療費や教育費(小学校~大学)を無料にするなど、世界最高レベルの社会福祉制度でも知られています。
なぜ、デンマークは高福祉国家として成り立っているのでしょうか?
その疑問に答えたのが、本書『なぜ、デンマーク人は幸福な国をつくることに成功したのか どうして、日本では人が大切にされるシステムをつくれないのか』です。
著者は、日本生まれでデンマークに40年以上暮らすケンジ・ステファン・スズキ(旧姓・鈴木健司)氏。1979年にはデンマーク国籍を取得し、現地で様々な事業を手掛けています。
そんなスズキ氏は、デンマークが高福祉国として成り立つ要因の1つとして、「共生の精神」が社会に生きていることを挙げています。同国には昔から「受け取りたいなら与えなさい」という言葉があり、人を大切にする国民性が強く存在しているのだそうです。そのため、福祉制度を乱用しようとする人は少ないといいます。
このような、社会福祉国家・デンマークの特徴や、デンマーク人の国民性などについて、本書では詳しく解説しています。それとともに、日本が社会福祉国家になれない原因や改善すべき点についても述べられています。その意味で、デンマークという国を理解するだけでなく、日本をより良い国にする方策を学ぶ上でも、大いに参考になる1冊です。