〈 戦争プロパガンダ10の法則 〉
- ①我々は戦争をしたくはない
- ②しかし敵側が一方的に戦争を望んだ
- ③敵の指導者は悪魔のような人間だ
- ④我々は領土や覇権のためではなく、偉大な使命のために戦う
- ⑤我々も誤って犠牲を出すことがある。だが敵はわざと残虐行為におよんでいる
- ⑥敵は卑劣な兵器や戦略を用いている
- ⑦我々の受けた被害は小さく、敵に与えた被害は甚大
- ⑧芸術家や知識人も正義の戦いを支持している
- ⑨我々の大義は神聖なものである
- ⑩この正義に疑問を投げかける者は裏切り者である
解説
民主主義国家では、開戦にあたり国民の同意を得ることが必要不可欠であり、この同意を得るために、戦争プロパガンダの法則が使われる。
あらゆる国の国家元首は、戦争を始める前、必ずといっていいほどこう言う。
「我々は、戦争を望んでいるわけではない」
第一次世界大戦開戦の1914年、フランス政府は召集令発布に際し、「徴兵は戦争のためではなく、平和を維持するための最善策である」と宣言。
ドイツ首相も、1915年8月にこう宣言した。
「我々は決して戦争を望んではいない。(中略)国家の繁栄は平和の中にこそある」
編集部のコメント
近代以降、紛争時に当事国の間で繰り返されてきた「プロパガンダ」。その実相を検証したのが、本書『戦争プロパガンダ10の法則』です。
著者はベルギーの歴史学者、アンヌ・モレリ。彼女は、ある1冊の本を参考に本書を著しました。その本とは、1928年に刊行された、アーサー・ポンソンビーの『戦時の嘘』です。
ポンソンビー(1871~1946)は、英国屈指の高貴な家系出身の政治家です。彼は平和主義者で、戦争を残虐極まりない、暴力的で野蛮な行為として捉えていました。そして彼は『戦時の嘘』で、第一次世界大戦中に各国が発信したプロパガンダの基本的なメカニズムについて論じ、戦争プロパガンダは10項目の「法則」に集約できると説きました。
モレリはこの10項目について、それぞれ具体例を挙げながら本書で紹介しています。それは、ポンソンビーの指摘した状況が第一次世界大戦に限ったものではなく、現代の政治システムの中でも、紛争が起こるたびに繰り返されている実情を明らかにするものでした。
訳者の永田千奈氏が「訳者あとがき」で書いているように、戦争プロパガンダの法則は、戦争に限らず、インターネットの世界にはびこる誹謗中傷や誘導、洗脳の手口にも当てはまるものです。そのため、国内の政治問題 ―― 例えば基地問題や原発問題など、2つの陣営が激しく対立するような場面でも、プロパガンダに踊らされた人が少なからずいるのではないでしょうか。
その意味で、本書が説く10の法則は、私たちが日常において情報の海でおぼれそうになった時や、感情に流されそうになった時、足を止めて考えるためのヒントにもなるものといえるでしょう。