「キノコは1000人の股をくぐる」という言葉をうかがったことがあります。
キノコとは松茸のことです。一般の人は、松茸を探しに行っても、1000人もの人が歩いた後では、もう見つからないだろうと考える。しかし、1001番目に行った人が「あっ、松茸があった」と松茸を拾うかもしれないという意味のことです。
解説
第1次南極越冬隊の隊長として、日本初の南極越冬を成し遂げた西堀栄三郎氏は、「1000人の人が歩いた後でも、まだ松茸はある」と言う。
私たちの目の前には、新事実なるべきもの ―― 未知なるものがたくさんある。
この未知の世界を何とか知ろうとして、一生懸命になって探す。松茸がないかなと思って、一生懸命に探す。
大切なのは、他の人が探しているから、もうないだろうと決めてかかるのではなく、一生懸命に探していくことである。すなわち、“研究的態度”を持つということだ。
その探し方の秘訣は何かというと、“観察”である。つまり、「変だぞ」と思うことがあったら、それを徹底的に究明する。
観察の仕方にはいろいろあるが、大事なのは、理屈をいわず、虚心坦懐に現象を眺めることである。
何にもとらわれず、何か現象を見つけたら徹底的に究明し、それを社会に役立たせようとする意欲を持つ。その意欲さえあれば、いくらでも新しいものを見つけられる。
編集部のコメント
用心の上にも用心することのたとえとして、「石橋を叩いて渡る」という言葉があります。これのやや逆説的な意味のタイトルが付けられているのが、本書『石橋を叩けば渡れない[新版]』です。この書名は、著者である西堀栄三郎氏の生き方が、従来よしとされているスタイルから少しずれていることを強調したくて付けられたそうです。
西堀氏は、1903年、京都生まれ。理学博士で、1957年には第1次南極越冬隊の隊長を務めた人物です。東京電気(現東芝)での勤務のほか、日本原子力研究所理事や日本原子力船開発事業団理事、日本生産性本部理事なども歴任。主な著書に『南極越冬記』(岩波書店)、『創造力』(講談社)などがあります。
本書は、西堀氏の講演をまとめた『石橋を叩けば渡れない』(1972年刊)の新版です。幼少の頃の環境や体験、学生時代の恩師や友人との交流、研究生活、隊長としての南極越冬生活…。本書では、様々な経験を通じて生まれた、氏の人生観、創造的な生き方などが披露されています。
なお、本書後半には、『石橋を叩けば渡れない』の続編として1982年に刊行された『五分の虫にも一寸の魂』(生産性出版)も抄録されていますが、これもまた逆説的なタイトルです。西堀氏は、「一寸の虫にも五分の魂」では当たり前すぎる、「五分の虫にも一寸の魂」があると信じてこそ、人の創造性はますます伸びていく――そう述べています。
バイタリティー溢れる西堀氏の言葉の数々は、私たちに未知の世界にチャレンジする勇気を与えてくれます。新しいことにチャレンジしたいと考えている人には、ぜひ一読いただきたい本です。




