「イカロスの翼症候群」 ―― 。頭が切れ、意欲もあり、力関係にも敏感な人間が、一時は急上昇を見せながら、突如として判断を誤り、無謀な行動に出る現象だ。
解説
なぜ多くの人は、権力を手にした途端、驚くような愚行に走ってしまうのか?
シリコンバレーであれ、ハリウッドであれ、憧れの世界には、頭脳に優れ、意欲あふれる人材が集まり、トップの座を賭けてしのぎを削り合う。成功を手にするのは一握りの人間だけだ。
この種の競争を「ウイナー・テイクス・オール市場」(一人勝ち市場)と呼ぶ。その競争は熾烈で、参加者は「ウイナー・ウオンツ・オール」(一人占め)という考え方を抱くようになる。すなわち、スター・プレーヤーはすべてを欲しがるのだ。
彼らがこうした考え方に傾く理由は、いくつかある。
第1に、一人勝ち市場で競う人々は極めて好戦的で、リスクに物怖じしない人間に変わっていく。
また、彼らはウイナー・ウオンツ・オールの心理ゆえに、「のし上がる=凡人と違う行動をする」と考える。そして、成功への裏道を見つけるといったルール破りをする。だがリスクを好み、ルールを軽んじていると、転倒の危険は大きくなる。
さらに、頂上に上り詰めると、ふんだんに使える経費や社用ジェット機での移動など、権力ゆえの役得を味わうことになる。そうした数々の悦楽は、人格まで変えてしまいかねない。
これに対し、トップに上り詰めてから、その地位に長く座っている人たちに共通するのは、優れたバランス感覚と、高い自己認識力を備えていることだ。彼らは、心理と行動の両面で節度を失わないように、普通の生活を習慣づけている。
編集部のコメント
行動経済学や組織行動学など、心理学を援用した研究が年々増えています。また、欧米企業はビジネス上の様々な問題に対して、心理学の知見を積極的に応用しています。
『リーダーシップに「心理学」を生かす』は、そのタイトル通り、リーダーにとって参考となる心理学の論文をまとめた1冊です。『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』に掲載された数多の論考の中から、9本を選んで掲載しています。
例えば、第1章「リーダーシップの不条理」は、INSEAD(欧州経営大学院)のマンフレッド F. R. ケッツ・ド・ブリース教授がリーダー特有の深層心理について語ったもの。実業界を研究対象とするブリース教授は、CEOを精神分析し、リーダーの要件、その能力の形成プロセス、さらに陥りやすい罠を明らかにしています。
また、第6章「なぜ地位は人を堕落させるのか」では、スタンフォード大学経営大学院のロデリック M. クラマー教授が、地位を得た人が堕落する原因について論じます。ちなみに、上掲の言葉は、クラマー教授がリーダーたちの不可思議な愚行の原因を説明する中で述べたものです。
ほかにも、企業再生のリーダーシップや、リーダーが無意識のうちに抱えている偏見など、様々な論考を紹介しています。
組織とは、不可解な人の「心」の集合体です。組織内部での対立やすれ違いをなくし、共通の目標に向けて結束するには、人の心を理解することが不可欠。そうした意味で、『リーダーシップに「心理学」を生かす』は、個と全体をマネジメントするリーダーに新たな視点や気づきを与えてくれる1冊といえます。




