「私たちは、すべてが自分のためだけにある、完全に自由になれる、小さな、人目から隠れた庵を確保しなければならない。そこでは本当の自由と本質的な退却と孤独とを達成できる」
――ミシェル・ド・モンテーニュ
解説
1人でいることの意義について、あらゆる哲学者が様々なことを語っている。
例えば、モンテーニュは上掲のように言う。すなわち、「1人」をしっかり体験するには、ふさわしい「場」や「空間」を見つけることが大切だと。他者と共有した時間の流れから一度退き、完全に1人になれる庵=場や空間を持つ。そうすることで初めて、私たちは本当の精神の自由を手にできるのである。
また、セーレン・キルケゴールは、次のような生き方を提唱する。
自分が自分の人生の主になって生きる。自分の信念に従って、これのためなら命を捧げても構わないと思えるような使命を選び取って、自分の全存在をかけて生きる ―― 。
彼はこの思想の基本概念を、「単独者」と呼ぶ。
では、単独者として生きるための条件は何か。
それは、他人が認めるかどうかにかかわらず、「揺るがない自己価値観」を持って生きることだ。これは、人から拒絶されても構わないと思える心の余裕、精神の自由を持っていないとできない。
編集部のコメント
なぜ大人になっても、不安や迷いが消えない人が多いのでしょうか?
心理療法家・諸富祥彦氏は、日本の大人たちが「いつまでも若々しくあること」「元気に活動すること」といった、外面的な価値ばかりを重視している点に、その理由があるといいます。
こうした、 “外から見える力”ばかりが評価される一方で、「中年期以降における内面的な成長・成熟」といったことは軽視されてきた ―― 。そう指摘するのが、本書『「本当の大人」になるための心理学 心理療法家が説く心の成熟』です。
この本は、「心から満足のいく人生を生きたい」と願う中高年の人々のために、成熟した大人への道を歩むための指針を示した心のガイドブックです。諸富氏は、残りの人生を真に充実したものにするためのキーワードとして、「人生の使命」「こだわりぬくこと」「静かな、深い孤独」「少数の他者との深い交流」を挙げています。いずれも、華やかな成功ではなく“内面的な充実”を養うための心得です。
その中の1つである「静かな、深い孤独」において語られるのが、上掲の「1人でいることの意義」です。諸富氏は、1人でいる時間こそが本来の自己を取り戻し、精神の自由を獲得することにつながると説きます。つねにスマホが鳴り、人とつながり続ける現代において、「孤独」は意識しなければ得られない希少な資源になりつつあるようです。
諸富氏は、経済的に恵まれていても、健康であっても、「魂が空虚」なままでは、人生はどうしようもないと言います。若さやスピードがもてはやされる時代にあって、内面を整え“本当の大人”へと向かうことは、人生の質そのものを変えるのかもしれません。
この本は、そんな「魂の満たされた日々」を生きたいすべての人に、静かに力をくれる1冊といえるでしょう。




