「ビジネスはアートであり、数学のように論理だけで唯一絶対の正解を導くことができない」
解説
かつて、ソニーは常に奇天烈なことに挑んでいた。失敗も多いが、そんな姿勢に魅力を感じるファンがプレミアム価格を払うため、全体では経済的に辻褄が合う ―― こうしたモデルを、同社は取っていた。
ところがある時、ソニーはEVA(経済的付加価値)という指標を導入した。これは、ある事業やプロジェクトが資本コストを超えて投資家にもたらす付加価値を測定する指標である。
一般的な理論としては、EVA導入は正しい選択かもしれない。だが、ソニーの場合は大きな問題があった。というのも、大半が失敗に終わる奇天烈なプロジェクトは、EVAで判断すると「中止した方がよい」という結論になってしまうからだ。
失敗する可能性の高いプロジェクトを中止すれば、当然、短期的には全体の業績は良くなる。だがその結果、常に新しいことに挑戦する同社の企業イメージが薄れ、熱烈なファンが離れてしまった。これが、その後の苦境を招く一因となった。
この例のように、ビジネスは数字や論理だけで正解を導くことができない。単純に部分最適の合理性ではなく、大きなコンテクストの中で善し悪しを捉えねばならない。それが、上掲した「ビジネスはアート」のゆえんだ。
編集部のコメント
書店では、成功の秘訣を説いた本が数多く売られています。
「あの会社はこうやって成功した」「成功するための○○の法則」…。有名企業の華やかな成功譚を読んで、このやり方を真似すれば自社も飛躍できるのでは、と考える人もいるのではないでしょうか。
本書『経営の失敗学』は、そんな「成功だけ」から学ぼうとする考え方に転換を迫る1冊です。
経営コンサルタントや経営学者として20数年間活躍してきた著者、菅野寛氏は、数多くの企業の成功・失敗を観察する中で、あることに気がついたといいます。
それは、「成功をパターン化はできないし、他社の成功をモノマネしても成功しない」ということ。つまり、いくら成功事例を調べたとしても、そこから「必勝法」を導き出すことはできないのです。
では、他に何もできることはないのかというと、そうではありません。
本書において、菅野氏は「陥りがちな共通の失敗は多く、ある程度パターン化できる」と書いています。
例えば、意思決定の質とスピードのバランスを欠いている、顧客が求めている価値を提供していない、実行の徹底度が足りない…。
これらのことは、言われてみれば当たり前のように思えるかもしれません。
ですが氏によると、多くの企業がその当たり前のことをできずに、いわば「自滅」しているといいます。逆に言えば、これらのことを徹底的に行うだけで、他社と比べて相対的に有利な立場に立てるのです。
必勝法を追い求めるのではなく、陥りがちな失敗を見定め、それを丁寧に回避していく。そうすることで、結果としてビジネスの成功確率は高まっていく――。
そんな成功への道筋を示してくれる『経営の失敗学』は、自社のビジネスがうまくいかないと悩む方に、ぜひ一読をお勧めしたい書です。




