読売新聞の2007年1月19日付朝刊一面の連載記事「核の脅威」の中に、以下の記述がある。
【日本に長年潜入中の休眠工作員(スリーパー)もいる。政府関係者によると、阪神大震災の時、ある被災地の瓦礫から、工作員のものと見られる迫撃砲などの武器が発見されたという】
(中略)ところが阪神・淡路大震災当時、日本政府はこうした事実を全く伏せて、メディアでも報じられなかった。(中略)日本では、本来民主主義の体制をとっているのに、このような事件や情報自体があまりにもタブー視され一方的に伏せられ続け、公の問題にされない。
解説
日本が亡びるとしたら、それは軍事的侵略や経済崩壊によってではなく、情報(インテリジェンス)の不備によってであろう。上掲の例は、その一端を示している。こうした例は他にもある。
ある米軍事専門誌によると、台湾に潜伏中の中国工作員は5000人以上に上るという。だが、この数は少なすぎるように思える。2005年、オーストラリアで中国の外交官が亡命を図った際には、同国に「数千人の中国工作員が潜入している」ことが暴露されている。だとすれば、中国にとって豪州とは比較にならないほど重要性を持つ台湾で、5000人に止まることはあり得ない。
では、日本にはどれくらい潜入しているのか。
2010年、『週刊ポスト』が「警視庁公安部などが作成した捜査ファイルの内容を関係者を経由して入手した」として、日本には約3万人に上る中国の秘密工作員組織があることを詳細に報じた。
本来なら、こうした情報は全国紙が報道すべきだ。少なくとも欧米メディアならそうするはずだ。
編集部のコメント
『情報亡国の危機』の著者である京都大学名誉教授の中西輝政氏は、長年インテリジェンスについて研究してきた方です。この本では、インテリジェンス先進国であるイギリスの事例を手がかりに、日本が抱える課題を浮き彫りにします。
ここでいうインテリジェンスとは、単なる情報収集のことではありません。集めた情報の信憑性を確かめ、それが国家や企業にどのような影響を及ぼすのかを分析し、判断に役立つ知へと変えることを意味します。
中西氏は、日本にはこうした情報を分析し、活用するための「インテリジェンス・リテラシー」が決定的に欠けていると指摘します。そして上掲で示した通り、長年にわたり日本が「スパイ天国」になっていると警鐘を鳴らしています。
国家機密や先端技術の流出、外国による世論工作…。国家と企業を取り巻く情報戦は、本書が刊行された2010年以降、テクノロジーの進化などによりますます切実さを増しているように思えます。
そうした中、2026年7月には、政府のインテリジェンス活動の司令塔「国家情報会議」と、その事務局を担う「国家情報局」が発足。内閣情報調査室を発展的に改組し、情報の収集・分析を政府の意思決定に生かす体制強化が動き出しました。
16年前に本書が問いかけた「日本は情報をどう扱うべきか」という問題は今、制度改革という形で新たな段階を迎えています。
ビジネスパーソンの皆さまは本書で描かれる、日本の政治家やメディアなどのインテリジェンス・リテラシー欠如を反面教師として、自らの「情報を見る目」を鍛え直してみてはいかがでしょうか。




