イスラームを宗教として考えるよりは、むしろ、資本主義、共産主義などと同列に考える方がいいのではという学者もいる。
解説
20世紀後半、西洋文明は行き詰まりが自覚されるようになった。そんな中、英国、米国などの都市に多数のモスクがたてられ、ムスリム(イスラーム教徒)への改宗者が増えた。今日、イスラームは欧米世界で第2の宗教となっている。
「宗教」は、一般的に「日常生活で経験することのできる世界をこえた存在に対する信念体系」と定義される。これに従うと、イスラームももちろん、キリスト教や仏教と同じく宗教である。
しかし、イスラームは「宗教」という言葉にぴったりとは合わないといわれる。なぜか? イスラームは、その信念体系の上に築きあげられる生活の全体、文化の総体を指すものだからである。
多くの宗教とは異なり、人間の精神の救済や心の問題だけに重要性をおかない。心も含んでいるが、からだも問題にするし、人間が生きていく上の、すべてのことと関わるのがイスラームだとされる。政治、経済、社会、文化など、人間のあらゆる営みに関係するものなのだ。
しかも、特定の人間ではなく、地球上の人々すべてのものであるとする。人種、民族、国籍、階級をこえて形づくられる人間共同体の構成原理となるもの。そう考えられているのである。
上掲の言葉は、こうしたことを踏まえたものだ。
編集部のコメント
世界三大宗教の1つ、イスラーム(イスラム教)。その信徒の数は現在、全世界で約20億人にのぼるといわれています。
日本に住んでいると、イスラーム関連のニュースとして見聞きするのは、非日常的な出来事が多いように感じられます。古くは湾岸戦争、近年ではイスラエル・パレスチナ紛争や、イスラエルとイランとの軍事衝突…。
しかし当然ながら、そうした報道の裏側には、信徒であるムスリム(イスラーム教徒)たちの日々の暮らしが存在します。
そんな彼らの日常に光をあてたのが、本書『イスラームの日常世界』です。1991年の刊行以来、多くの版を重ねているロングセラーで、著者の片倉もとこ氏(1937~2013)は、長年にわたり中東の遊牧民やアラブ・ムスリムを研究してきた文化人類学者です。
この本では、断食や礼拝といった宗教的行為に加え、結婚や職業観などを通して、ムスリムの価値観や暮らしが描かれています。
例えば、ムスリムは結婚の時に「お互いを永遠に愛します」といった誓いを交わさないのだそうです。その背景には、「人間は本来弱い者なのだ」という認識があります。人は弱い存在であり、結婚を継続できなくなることもあり得るからです。だからこそ、離婚の時にはどうするかという具体的な取り決めも、あらかじめ交わしておくといいます。
このように本書では、私たちが普段の報道で目にすることの少ない、等身大のムスリムの姿が記されています。イスラームの人々の営みを知り、ステレオタイプではない真の異文化理解を深める上で、一読をおすすめします。




