コンピューターが数学の言葉だけを使って動いている限り、予見できる未来にシンギュラリティが来ることはありません。
解説
今、「シンギュラリティ」という言葉がもてはやされている。これは、人間の知能と同等レベルのAI(人工知能)が、自分自身よりも能力の高いAIを作り出すようになる地点のことである。
だが、数学者の新井紀子氏は「シンギュラリティは来ない」と述べ、次のように指摘する。
―― 実は、AIはまだどこにも存在していない。
人工知能と言うからには、人間の知能と同等レベルの知能でなければならない。しかし、基本的にコンピューターがしているのは、計算(四則演算)である。計算するということは、認識や事象を数式に置き換えるということ。つまり、AIが人間と同等の知能を得るには、私たちの脳が認識していることを全て数式に置き換えることができなければならない。
今のところ、数学で数式に置き換えることができるのは、論理的に言えること、統計的に言えること、確率的に言えることの3つだけである。そして、私たちの認識を、全て論理、統計、確率に還元することはできない。
今のAIの延長では、あるいは今の数学では、人間と同等レベルの知能を持つ「真の意味でのAI」はできないのである。
編集部のコメント
人工知能(AI)は将来、人の仕事の多くを奪う。だが、「AIにできない仕事」を担うべき今の子どもたちは、教科書もろくに読めない。このままでは彼らが大人になった時、AIにできない仕事など引き受けることができず、失業するだろう――。
『AI vs. 教科書が読めない子どもたち』はそう説き、未来の「AI恐慌」に警鐘を鳴らした本です。
著者は、国立情報学研究所教授の新井紀子氏。2011年から、人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」でプロジェクトディレクタを務めた人物です。
プロジェクトの開始から7年が経った時点で新井氏は、ロボットが東大には合格できないものの、有名私大に合格できるレベルには達していると結論づけました。これは、AIの限界と可能性を同時に示したものといえます。AIがあらゆることをできるわけではありませんが、労働力として人間のライバルになるだけの能力を持つ可能性が高いのです。
その上で新井氏が懸念するのは、むしろAIよりも“人間”の方です。氏が行った調査では、日本の多くの中高校生の読解力は、簡単な文章も読み解けないほどの危機的状況だったといいます。
AIが人間のライバルとなる時代、人間に求められるのは、AIにできない仕事です。そしてAIの不得意な分野とは、高度な読解力や、柔軟な判断が必要な仕事です。
ですが、現状から考えると、若い人たちはAIができない仕事をうまくやるだけの能力を身につけることができないのでは…。教育の専門家でもある新井氏は、本書でそうした懸念を表明しています。
現在の教育のあり方を問い直した本書は大きな反響を呼び、25万部のベストセラーとなりました。また、ビジネス書大賞2019大賞、日本の人事部HRアワード2018書籍部門優秀賞、山本七平賞、石橋湛山賞、等々を受賞するなど、高い評価を受けています。
「TOPPOINT大賞」2018年上半期でも大賞に選ばれており、情報感度の高いビジネスリーダーをはじめ、多くの人たちの問題意識を刺激する本であることが窺えます。未読の方は、ぜひ一度お読みください。




