インバウンド・ツーリズムは、日本の観光産業に大きな成長をもたらしている ―― 。おそらく多くの国民がそう思っているかもしれないが、実態は私たちの想像に反している。中国からの観光客がこれほど日本に訪れているにもかかわらず、日本の旅行業界はなかなかインバウンドの恩恵を被ることができていない。
解説
日本がインバウンドの恩恵に浴せない遠因は、中国の旅行社の増殖にある。規制緩和が進む中国で、旅行会社が乱立している。そして、「格安ツアー」をうたい文句にしないと客を惹きつけられない中、中国人の海外旅行市場は劣悪な価格競争に陥っている。これが、日本のインバウンド市場に深刻な影響をもたらしているのである。
中国の団体旅行客が訪日する際、日本では「ランドオペレーター」と呼ばれる手配代行業者がツアーの世話をする。ホテルや飲食、観光地などのアレンジが主な業務だ。だが、注文の9割は「中国資本のランドオペレーター」に行ってしまう。
日本の旅行会社が受注できないのは、中国からの団体ツアーがあまりにも安すぎるためだ。では、なぜ中国系のランドオペレーターは、利益が出ない格安ツアーを引き受けることができるのか。
ある中国資本の会社は、中国人客の受け手となり、ホテルや飲食店、免税店を手配することで多額の売上を上げている。カギとなるのが“ぼったくり免税店”の存在だ。何も知らない客に不当な利益を乗せた高額商品を売りつけ、得た利益をランドオペレーターらが山分けする構図である。
日本のインバウンド市場は、中国での客の募集から、観光、買い物に至るまでの行程すべてを、“民族資本系”のランドオペレーターに牛耳られているといっても過言ではない。