権力は富を生む。その富が人をつなぐ。人は富を手にする人に惹かれていく。
解説
このことを示す好例が、米国の大手ゼネコン企業ベクテルである。2003年5月、イラク戦争が始まって1カ月も経たないうちに、同社は「イラク復興事業」の6億8000万ドルの契約をものにした。女性活動家バンダナ・シバは、こう言う。
「米軍がイラクの病院、橋、水道施設を爆撃で入念に破壊した後、今度は米国の企業が復興事業から利益をむさぼろうとしている。…戦争は、企業支配拡大の都合のいい手段である」
実際、米国の戦争行為の後ろには、ベクテルの影がつきまとっている。同社の元社長で最高顧問であるジョージ・シュルツは、2002年9月、フセインに対する即時軍事行動とイラク再建を訴える寄稿文を『ワシントン・ポスト』に寄せている。
シュルツは、レーガン大統領下で国務長官を務めた人物でもある。そして実は、レーガンを共和党の大統領候補にかつぎ出したのは、ベクテルの2代目社長スティーブン・ベクテルだ。
米国政府は日本の経済政策に何かと注文をつけるが、その“尖兵”として動き回るUSTR(米国通商代表部)も、ベクテルと無縁ではない。ヤイター、ヒルズ、カンターと続いたUSTR代表は例外なく、ベクテルに便宜を図っている。
蜜に群がる米国の強大な人脈が、世界を振り回しているのである。
編集部のコメント
『売られ続ける日本、買い漁るアメリカ』は、小泉政権時代(2001~2006年)の構造改革が、日本に何をもたらしたかを描いた本です。
著者は、経済学者の本山美彦(よしひこ)氏。複数の国際経済関係団体でトップを務め、国際経済に関する書籍も多数著している人物です。
その本山氏は、本書で次のように喝破しています。
「小泉政権の構造改革とは、米国から要求された事項を、実に忠実になぞることだった」
金融、建築、保険、医療…。米国は、様々な分野において、日本市場に開放を求めてきました。そんな米国からの強力な圧力に沿って、日本政府は規制緩和を推し進めていったというのです。
本書は、様々な外交文書を解説しつつ、その実態を明らかにしています。
米国からの圧力に押された政治家が、米国寄りの法律を作る。この法律の作成過程で、取り巻きが甘い蜜を吸いに群がり、蜜を既得権益に変える。そして、市民が被害者となる――。
こうした構造をより普遍的な形で言い表したのが、上掲の「権力は富を生む。その富が人をつなぐ。人は富を手にする人に惹かれていく」という言葉です。
日米関係の裏を暴いた本書ですが、より広い視点で国際関係、さらには人間関係を考えるきっかけをも提供してくれる書といえるでしょう。