〈 悩みを解決するための魔術的公式 〉
第1。まず状況を大胆率直に分析し、その失敗の結果生じうる最悪の事態を予測すること。
第2。生じうる最悪の事態を予測したら、やむを得ない場合にはその結果に従う覚悟をすること。
第3。これを転機として、最悪の事態を少しでも好転させるように冷静に自分の時間とエネルギーを集中させること。
解説
この公式は、天才技師ウィリス・H・キャリアが編み出したものである。
彼は若い頃、ガス浄化装置を取り付ける大きな仕事に携わった。その時、予期せぬ障害が発生し、装置は契約書にうたったように機能しなかった。彼は失敗に悩み、眠れない夜が続いた。だが、いくら悩んでも仕方がないという心境になり、目前の事態に対処する具体策を考え出した。
それが上記の3段階の公式である。
悩みにつきものの最大の欠陥は、集中力を奪うことである。悩み始めると、気持ちが絶えず動揺し、決断力が失われる。しかし、自分の目を最悪の事態へと向けさせ、それに対する覚悟を決めれば、問題解決に向けて全力を集中できる。
もし悩みの種を抱えているなら、このキャリアの公式を使ってみるべきである。
編集部のコメント
『道は開ける 新装版』の著者D・カーネギーは、人間関係に関する研究の先覚者として知られる人物です。また、あらゆる自己啓発本の原点ともいえる不朽の名著、『人を動かす』の著者としても有名です。なお、『道は開ける』と『人を動かす』は、カーネギーの二大名著といわれています。
『道は開ける』の訳者、香山晶氏は「まえがき」で二大名著の違いを次のように語っています。いわく、『人を動かす』が「人間関係」の機微について述べたものであるのに対し、『道は開ける』はあらゆる人間に共通する「悩み」の実態とその克服法を述べたものである、と。
香山氏が端的に表現しているように、本書『道は開ける』は誰もが生きていく上で直面する「悩み」の正体を明らかにし、その悩みを解決するための原則を具体的に示したものです。1944年にアメリカで出版されると、すぐに54万部も売れ、その後も世界各国でベストセラーになったといいます。日本でも、邦訳が300万部を突破するロングセラーとなっています。
カーネギーは1888年、米ミズーリ州の農家に生まれました。大学卒業後は雑誌記者や俳優、セールスパーソンなど様々な仕事を経験します。その後、YMCAで弁論術を担当したのち、D・カーネギー研究所を設立。人間関係研究の草分けとして名声を博すようになります。そして1955年に、66歳で亡くなりました。
『道は開ける』の「序――本書の生いたち」でカーネギー自身が触れているように、彼は本書を執筆するにあたり、「悩み」に徹底的に取り組みました。関連書を読破するだけでなく、ヘンリー・フォードやエリノア・ルーズヴェルトといった著名人へのインタビューを敢行。また、彼が教えるYMCAのクラスでは、悩みの解消法の原則を学生に教え、それを実生活で応用してもらい、結果をクラスで披露してもらうなどの試みも行いました。
こうした努力の末に執筆された本書は、カーネギーが大上段に構えて悩みの克服法を説くのではなく、多くの人によって悩みが「どのように克服されてきたか」について、実証的に知ることのできるものとなっています。
『人を動かす』と同様、約80年前に著された『道は開ける』が今日まで読まれ続けているのは、こうした点に魅力があるのでしょう。
『道は開ける』は「読む本」ではなく、新生活に進むための「案内書」である ―― 。カーネギーが巻末で述べているように、ビジネスパーソンの皆さんも本書を活用されることをおすすめします。