「日本の社会を操るのはきわめて簡単だ」
これは、(中略)ゾルゲが残した、日本人が大いに教訓とすべき証言です。
解説
ソ連のスパイだったゾルゲは、日本を蟹にたとえている。蟹の甲羅のように最初はガードが固くてなかなか中に入れないが、いったん入ってしまえば、甲羅の中心まで簡単に入っていける。日本人は「あの人の知り合いなら」と言って、すぐに気を許すからだ、と。
日本の実体は今も変わらず、この国を動かしている中枢部の人間は極めて弱体である。それは、欧米に見られるような、国家指導に従事しうる超エリート層がいないからだ。日本人は下から上まで遺伝子が完全に混じり合った平等な民族で、社会的、遺伝子的にエリートが生まれない。
対して欧州だと、ノルマン人によるイングランド支配のように、外部民族が現住民族を征服し、社会の上層部を占めた1000年の歴史がある。だから人種的にも遺伝子的にも一般大衆とは異なる。
今の日本の政界には2世議員、3世議員が多いと言われるが、10代続く国会議員がざらにいる欧州とはわけが違う。欧米のエリートの多くは、先祖代々その国の上層部を占めてきた貴族で、庶民と違う世界で何百年と生きている。
欧米社会の道徳観である「ノーブレスオブリージ(地位の高い人間には、それにふさわしい義務があること)」のもともとの意味は、貴族は戦争になったらいち早く参戦し、戦場で先頭に立たなければいけないということ。つまり、権力者は重い社会的責任を負うことを、欧州の貴族は子供の頃から教えられて育っている。
日本の中枢を担う人たちを、このような欧米のエリートと一緒に考えてしまっては、それぞれの国の本質を見誤ることになる。
編集部のコメント
情報過多の時代。インターネットやSNSを通して、様々な意見、見解、判断を知ることができるようになりました。ですが中には、「フェイクニュース」と呼ばれる虚偽情報や不確かな情報も存在します。一見もっともらしい他人の見解に、自分の判断を惑わされたという経験をお持ちの人も多いのではないでしょうか。
そのような事態を避け、「自分の頭で考え、判断する」ためにはどうすればいいのでしょうか?
本書『本質を見抜く「考え方」』は、そのための思考法を教えてくれる1冊です。
著者の中西輝政氏は国際政治学者として、また歴代内閣のブレーンとして、常に新しい情報を集めて検証し、自分なりの見解を導き出さねばならない立場にありました。
この本ではそうした経験をもとに、一般にも通用する「ものごとの本質を見抜くための考え方」を抽出、53の「考え方」としてまとめ、様々なエピソードとともに紹介しています。
ちなみに上掲の言葉は、日本人とヨーロッパの人々の「考え方」の違いについて述べた、「日欧のエリートを『同じ土俵』に置かない」に記されています。
本書はそれ以外にも、「『敵』をはっきりさせる」「自分なりの『仮説』を立てる」「数字や論理の『正しさ』に惑わされない」等々の思考法が語られており、いずれも実用的です。
他人の考え方に染まらず、自分の頭で考えることや、ものごとの本質を見抜く力を身につけることは、ビジネスパーソンにとって重要でしょう。『本質を見抜く「考え方」』は、そのヒントとなる1冊といえます。