鉄道会社は自社の事業を、輸送事業ではなく、鉄道事業と考えたために、顧客をほかへ追いやってしまったのである。事業の定義を誤った理由は、輸送を目的と考えず、鉄道を目的と考えたことにある。顧客中心ではなく、製品中心に考えてしまったのだ。(中略)
輸送産業としてなら、鉄道にもまだまだ成長できるチャンスがある。鉄道による輸送だけに限定することはないからだ。
解説
ハーバード・ビジネス・スクールのセオドア・レビット教授は説く。
「(ある産業の)成長が脅かされたり、鈍ったり、止まってしまったりする原因は、市場の飽和にあるのではない。経営に失敗したからである」
こうした失敗例の1つが、鉄道だ。鉄道が衰退したのは、旅客と貨物輸送の需要が減ったためではない。また、鉄道以外の手段(自動車、トラック、航空機など)に顧客を奪われたからでもない。鉄道会社自体が、そうした需要を満たすことを放棄したからだ。そのことを具体的に説明したのが、上記の言葉である。
また、ハリウッドの映画会社が危機に陥ったのは、テレビのせいではない。鉄道会社と同様に、事業の定義を誤ったからだ。自らをエンタテインメント産業と考えるべきだったのに、映画を制作する産業だと考えてしまったのである。
テレビが出現した時、ハリウッドはそれを自分たちのチャンス、すなわちエンタテインメント産業を飛躍させてくれるチャンスとして歓迎すべきだったのに、これを拒否してしまった。
編集部のコメント
『ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)』。
ハーバード・ビジネス・スクールの機関誌として、1922年に創刊された世界最古のマネジメント誌です。米国をはじめ、日本、ドイツ、イタリア、BRICs諸国、南米主要国など、世界60万人のビジネスリーダーやプロフェッショナルに愛読されています。
そんなHBRに掲載された論文の中から、同誌編集部がマーケティングに関する論文を10本厳選し紹介したのが、本書『マーケティングの教科書――ハーバード・ビジネス・レビュー 戦略マーケティング論文ベスト10』です。「イノベーションのジレンマ」で知られるクレイトン・クリステンセン(ハーバード・ビジネス・スクール教授)をはじめとした、斯界の権威による名著論文の数々を収めています。
例えば、フィリップ・コトラー(ノースウェスタン大学ケロッグスクール教授)らの論文である「営業とマーケティングの壁を壊す」(1章)。この中でコトラーらは、役割分担などで反目しがちな営業部門とマーケティング部門のコラボレーションを実現させる方法について解説しています。
ちなみに上掲の言葉は、ハーバード・ビジネス・スクール教授のセオドア・レビットの論文「マーケティング近視眼」(3章)で登場します。この中でレビットは、事例を交えながら、顧客中心の経営の重要性を説いています。
『マーケティングの教科書』は、経営者やマーケティング担当者はもちろん、営業、商品開発などの各部門のマネジャーから一般社員に至るまで、参考になる内容が詰まった1冊です。




