〈 諸葛孔明の人物鑑定基準 〉
- ①1つの問題について善悪の判断を求め、その志がどこにあるかを観察する
- ②言葉でやりこめてみて、相手の態度がどう変化するかを観察する
- ③計略について意見を求め、どの程度の知識をもっているかを観察する
- ④困難な事態に対処せしめて、その勇気を観察する
- ⑤酒に酔わせてみて、その本性を観察する
- ⑥利益でつってみて、その清廉潔白の加減を観察する
- ⑦仕事を与えてみて、命じた通りにこなしたかどうかによって、その信頼度を観察する
解説
『三国志』の中で、「泣いて馬謖を斬る」の故事となった馬謖は、才能に溢れた人物だった。
だが、才気煥発の者は、時に己の才にまかせて突っ走るために、下手をすると、それが命取りになりかねない。
この馬謖を、「戦の神様」といわれた諸葛孔明が重用した。孔明は、大国・魏との戦いにおいて、馬謖を蜀の主力軍の司令官に任命し、「渭水のほとりに陣を構えよ」と指示した。
だが、馬謖はそれに逆らった。「渭水に布陣して勝っても、戦功は孔明に帰せられる。自分の戦略で勝てば、戦功はすべて我がものになる」と考えたのだ。そして、馬謖は山上に陣を敷いた。
だがその結果、魏軍に四方から山頂に攻めのぼられ、惨憺たる敗北を喫した。後日、孔明は命令に背いた馬謖を泣いて斬ったと伝えられる。
孔明が何よりも悔しかったのは、自著『将苑』の中に「人を見る明」の項目を設けたほど、人物の洞察には自信があったのに、その判断を誤ったことだった。馬謖の才気に惑わされて起用したのが間違いであったと、孔明は自らを責めた。
この『将苑』に書かれている孔明の人物鑑定法が、上記の7項目である。
編集部のコメント
他人を惹きつける人と、そうでない人。その違いはどこにあるのか?
この疑問に対する答えを明らかにしようとした書が、『人間的魅力の研究』です。
著者は、評論家の伊藤肇(はじめ)氏。1926年生まれで、第二次世界大戦末期には旧満州国立建国大学に在学していました。中国古典への造詣が深かった氏は、戦前の財界人と親交を結び、漢籍の素養ある知識人の畏敬を受けていたそうです。その主な著書に『現代の帝王学』『新装版 左遷の哲学 「嵐の中でも時間はたつ」』などがあります。
伊藤氏は「人間的魅力」を探るにあたり、中国明代の碩学・呂新吾が著した『呻吟語』を参考にします。『呻吟語』は人の生き方、在り方を説き、読み継がれてきた古典です。
呂新吾はこの書で、人の魅力を次の3つに分類しています。
①深沈厚重(私心が全くない人。民衆を幸せにする人物)
②磊落豪雄(小さなことにこだわらない、実行力のある人)
③聡明才弁(秀才で弁舌さわやかな人)
伊藤氏はこれら3分類についてそれぞれ解説するとともに、西郷隆盛や福沢諭吉、瀬島龍三(伊藤忠商事元会長)や土光敏夫(東芝元会長)など、古今の人物のエピソードを交えながら、「人間的魅力」とは何かを追究していきます。
1980年に初版が刊行された『人間的魅力の研究』(文庫版は2000年発行)は、とりわけ経営者の間で愛読され、読み継がれてきたロングセラーです。自身の魅力を高める上でも参考になる、人物論の名著といえるでしょう。