2024.01.05

 私はアリストテレースが『ニコマコスの倫理学』で何かの折に表明した「賢者は快楽を求めず、苦痛なきを求める」という命題が、およそ処世哲学の最高原則だと考える。

解説

 アリストテレースの命題は、享楽や幸福が「消極的な性質」のものであるのに対し、苦痛は「積極的な性質」のものだという点に基づいている。

 例えば、全身は健康だが、どこかに痛い個所があると、意識は絶えず痛みの個所に向けられ、全身の健康という生命の喜びは感じられなくなる。

 また、仕事や生活など万事が思い通りだが、ただ1つ思い通りにいかないことがある時、このことが絶えず頭に浮かび、それ以外の思い通りになっている事柄はほとんど考えない。

 こうした事実があるから、アリストテレースは享楽・快楽を求めるのではなく、人生の災厄を逃れることに尽力すべきだと教えるのである。

 作家のヴォルテールも、言っている。

 「幸福は幻にすぎないが、苦痛は現実である」

 従って、自分の人生を振り返る時は、享楽による喜びを数えるのではなく、逃れた災厄について考えるべきである。

 「幸福に生きる」ということは、「あまり不幸でなく」、すなわち、我慢できる程度に生きるということだと理解すべきである。

 もとより人生は、本来、楽しむべきものでなく、克服し、始末をつけるべきものなのだ。

編集部のコメント

 『幸福について ―人生論―』は、真の幸福とは何か、幸福な人生を送るには何が必要かを論じた書です。
 著者は、19世紀ドイツを代表する哲学者、アルトゥール・ショーペンハウアー。彼の主著である『意志と表象としての世界』は、ヨーロッパのペシミズム(厭世主義)の源流となり、同じドイツの哲学者ニーチェや小説家トーマス・マンらに影響を与えました。
 「人生は最悪の世界だ」。そう説く“厭世哲学者”ショーペンハウアーが、「幸福」について風刺とユーモアたっぷりに論じているところに、『幸福について』の1つの特色があるといえるでしょう。

 ちなみに、原著のタイトルは『幸福について』ではありません。
 本書で訳出しているのは、ショーペンハウアーが1851年に著した『筆のすさびと落穂拾い』(随想集)の中の一編。その原題は、『処世術箴言』です。
 このタイトルからもわかるように、本書では、格言や詩文など、様々な箴言を引用しています。上掲のアリストテレースやヴォルテールをはじめ、その範囲は時代や分野を超えて様々。使い古された決まり文句は避け、ショーペンハウアーが「叙述の価値あり」と認めたものを取り上げて、人生の意義や幸福の本質を描き出しています。

 『幸福について』は、原著刊行から100年余り後の1958年に出版されました。以来、60年以上にわたって読み継がれています。
 時の流れに耐えて残ってきた数々の思想家の言葉は、今日でもなお色褪せません。本書は、現代社会を生きる私たちにも多くの示唆を与えてくれる古典的名著です。

2021年5月号掲載

幸福について ―人生論―

真の幸福とは何か。幸福な人生を過ごすには何が必要か ―― 。古から考察されてきたこのテーマについて、19世紀ドイツを代表する哲学者が論じた。古人の箴言などを引きつつ、風刺とユーモアの効いた筆致で人生の意義や幸福の本質を描きだす。現代社会を生きる我々にも多くの示唆を与えてくれる、人生論の古典的名著である。

著 者:ショーペンハウアー 出版社:新潮社(新潮文庫) 発行日:1958年3月
閉じる

ネット書店へのリンクにはアフィリエイトプログラムを利用しています。

新刊ビジネス書の
要約を紹介する月刊誌
『TOPPOINT』
本誌を
サンプルとして無料
お送りいたします。

  • book01

    熟読

    毎月大量に発行される新刊ビジネス書や、文化、教養に関する新刊書などを、100冊前後吟味します。

  • book02

    厳選

    熟読した本の中から特に「切り口や内容が新鮮なもの」「新たな智恵やヒントが豊富なもの」10冊を厳選します。

  • book03

    要約

    読者の方が、本を購入される際の「判断基準」となるよう、原著の内容を正確に、わかりやすく要約します。

購読者の約7割が、経営者および
マネジメント層の方々。
購読者数は1万人以上!
その大半の方が、6年以上ご愛読。

まずは、1冊無料試読
TOPPOINT編集部厳選「必須のビジネス名著100選 2024年選書版 オールタイムベスト10ジャンル×10冊」を1部無料謹呈! TOPPOINT編集部厳選「必須のビジネス名著100選 2024年選書版 オールタイムベスト10ジャンル×10冊」を1部無料謹呈!