あらゆる分野において、大小さまざまな規模で、私たちの社会は、たとえ、結果がどうなろうとも「いますぐに欲しい」社会になりつつある。すなわち、「インパルス・ソサエティ(衝動に支配される社会)」となりつつあるのだ。
解説
アメリカのシアトル郊外に、「リスタート」というインターネット依存症リハビリ施設がある。入所しているのは、オンラインゲームにのめり込み、仕事も人間関係もめちゃくちゃになった人たちだ。
ゲーム会社はプレーヤーに長くゲームをやらせたいと考える。長くゲームをするほど、おカネを払ってでも強くなろう、アップグレードしようとする可能性が高まるからだ。そこで会社は、ゲームをより「没頭できる」ものにする。その結果、人々はゲームの魔力にさらにはまり込んでいく。
彼らを動かしているのは、売上拡大を狙うゲーム会社と、プレーヤーの飽くなき自己表現欲求だ。
こんな話は、一般の人には無関係に思えるかもしれない。しかし実は、彼らの根幹にある問題は誰もが直面するものだ。つまり、「消費者が欲しがるものを与えることに長けた社会経済システムとどう付き合っていくか」という問題である。
今日、消費経済のシステム全体が、個々人の願望を真ん中に据えるようになっている。薬や音楽で自分がなりたい気分になる、体もトレーニングや手術でカスタマイズする、SNSの投稿に「いいね!」と言ってもらえる友だちをつくる…。
このような「自らの願望を追う世界」が重大な問題を抱えていることは明らかだ。例えば近年、アメリカは住宅バブル崩壊で世界経済を沈ませかけたが、これも飽くなき満足感を追求した結果だった。
編集部のコメント
大量生産やインターネットの普及、そして物流技術の進歩などにより、私たちは「欲しいものがすぐ手に入る」ようになりました。日々便利になり、豊かになっていくように見える社会ですが、そこに問題はないのでしょうか?
今の「豊かさ」の代償は、社会の破滅である ―― 。現代の社会経済システムのあり方にこう警鐘を鳴らすのが、本書『「衝動」に支配される世界 我慢しない消費者が社会を食いつくす』です。
著者のポール・ロバーツ氏は、ビジネスや環境に関する問題を長年取材してきたジャーナリスト。これまでにも石油や食糧の問題など、現代社会の病理に鋭いメスをいれた著作を刊行してきました。
著者によれば、かつて社会は慎ましかったといいます。そして結束力も、未来への気遣いもあった、と。
しかし現在はどうでしょうか。何でもすぐに手に入るようになったために、自己の欲求を満たすことが最優先となり、衝動的で短期的な結果ばかりを求める「近視眼的な社会」へと変貌を遂げてしまった…。著者は、そう批判します。
それは消費者だけの問題ではありません。簡単にレイオフを繰り返す企業や、有権者に感情的に訴えかける一方で長期的な問題に取り組もうとしない政治家なども同様です。
個人、企業、そして政治までが近視眼的で自己中心的な社会では、富は社会全体に利益をもたらすものではなく、奪い合うもの。その結果、社会は消耗し、もはや持続不可能となりつつある、というのが、著者の分析です。
本書は「衝動」に支配されるアメリカ社会の状況を取材したものですが、原著刊行から10年が経過した今、日本も同じような状況に陥っているのではないでしょうか。
本書が提起する問題の数々は、私たちに社会のあり方そのものを考えるきっかけを与えてくれます。




