悲しいかな、中流層のためのロビイストはいない。
解説
ブログメディア「ハフィントンポスト」の創設者、アリアナ・ハフィントンは言う。
アメリカの政治は崩壊している。それは、「1人1票」という民主主義の基本原理が、私利私欲にまみれた政治的な駆け引きにとって代わったためである、と。
これを象徴するのが、ワシントンにいるロビイストと、彼らの使う金が急増していることだ。
2009年には、1万3700人を超えるロビイストが、総計35億ドルという記録的な金額を使って、利益団体にとって有利な政策を導き出そうとした。これは2002年の2倍の額だ。
上下両院の議員は計535人だから、仮に35億ドルを535人で割ると、利益団体のために動いた見返りとして、議員1人の懐に年間650万ドルが入ったことになる。これに加えて数百万ドルもの金が、経済界から政治家に流れている。こうしてロビイストたちは、政治を意のままに動かしてきた。
2008年、国民は「変化」を求めて投票した。
だが、ワシントンのロビイストたちは、ウォール街やエネルギー政策や医療保険を改革しようという計画を骨抜きにし、葬り去ってしまった。
重要な法案が下院や上院で審議されている時、メディアは何か大変なことが争われているかのように伝えたがるが、実はその頃には勝負はついているものだ。本当の戦いははるか前に起こり、たいていロビイストが勝つ。
アメリカが今進んでいる壊滅的な道を変えるには、ワシントンの政治を意のままに動かしてきたロビイストたちを叩きのめさなくてはならない。
だが悲しいかな、勤勉に働く多くの国民の利益を守るロビイストはいないのである。
編集部のコメント
アメリカ人の5人に1人が失業中か不完全雇用の状態にあり、毎月12万以上の世帯が破産している…。まじめに働く中流層が見捨てられる状況に憤り、彼らを窒息させる「犯人」を追求した本が、この『誰が中流を殺すのか アメリカが第三世界に墜ちる日』です。
著者のアリアナ・ハフィントン氏は、1950年、ギリシャ・アテネ生まれ。1980年にアメリカに移住し、2005年にブログメディア「ハフィントン・ポスト」を創設しました。2006年と2011年にタイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれ、2009年には英フィナンシャル・タイムズの「2000年代をつくった50人」にも選ばれています。
氏が本書に込めた思いについては、本書の「訳者あとがき」で触れられています。
アメリカが20世紀に繁栄した1つの理由は、努力すれば誰でも成功をつかめるという「アメリカン・ドリーム」の哲学にありました。それが今では、格差は拡大を続け、中流層は絶滅の危機に陥っています。
このままでは、一握りの大富豪とその他大勢に社会は二極化し、アメリカは「第三世界」に転落しかねない――氏は、そう警鐘を鳴らしています。
ギリシャからの移民である氏にとって、アメリカは「第二の祖国」。それだけに、アメリカの現状に対する怒りは大きかったのでしょう。
「ニュースサイトの編集長」という立場からアメリカの政治・社会の問題点を提示し、その対処法を示した本書。格差問題に対する氏の警告は、国を超えて日本にも当てはまるものと言えます。




