マーケターはよくロイヤルティとか顧客との長期的な関係とかいう話をするが、近年では、ますます多くの消費者が企業との関係をオープン・マリッジ、つまり浮気公認の結婚関係のようなものとみなしている。
解説
現代の消費者は浮気性である。
例えば2012年の調査で、ホテル・ブランドに対するロイヤルティが急激に低下したことがわかった。回答者のうち、「毎回同じブランドのホテルに宿泊する」と答えた人は、わずか8%にすぎなかったのだ。
こうした傾向の根底には、様々な要因がある。
価格比較サイトやレビュー・サイトなど、各ホテルの価値を評価できるツールが増えたのは、その理由の1つである。
顧客ロイヤルティの低下にもかかわらず、いまだに多くのマーケターはロイヤルティを重視する。ロイヤルティは自社の利益に大きく貢献する、マーケティング費用の減少や競合他社参入の阻止など他にも様々なメリットがある、と。
ロイヤルティの重要性については、これまでに多くの専門家が議論してきた。
学者たちは「ロイヤルティが収益性のカギを握る」と繰り返し唱えてきた。コンサルタントは、顧客の生涯価値の計算方法を説いた。顧客生涯価値は、企業が新規顧客の獲得に費やせるコストを測る目安になるとされる。
こうした議論は魅力的だが、その説得力や重要性はますます小さくなっている。
顧客と企業の関係がオープン・マリッジに近くなれば、つまり浮気性の消費者が増えれば増えるほど、生涯価値は理論上の計算にすぎなくなる。特に他社に乗り換えるコストが低い場合、長期的な関係を築くのは困難だ。
長期的な関係が実現しそうもないのであれば、生涯価値の計算に基づいてマーケティング判断を下すのは無意味である。
編集部のコメント
「企業のブランドはこれまで以上に重要」「ロイヤルティを築くことがマーケターの大事な仕事」「顧客はみんな不合理だ」…。マーケティングの常識とされてきた、様々な“定説”。そのほとんどを「もはや通用しない」と喝破したのが、『ウソはバレる 「定説」が通用しない時代の新しいマーケティング』です。
なぜそれらの定説が、今では通用しないのか。本書の「訳者あとがき」では、書名の由来と絡めて次のように説明しています。
超情報化時代の到来は、消費者が「情報」を得ることを容易にしました。これは、マーケター側にとっては厳しい状況です。商品をほかの高額商品と一緒に並べて割安に見せたり、自画自賛の広告で商品をアピールしたり…。様々な策を講じて消費者を購入へ誘導しようとしても、価格比較サイトやレビュー・サイトを調べられたら、真実が一発でわかってしまう――つまり、「ウソはバレる」のです。
本書の特色は、そんな新時代の訪れに適応し、マーケティング手法を抜本的に転換することを提唱している点にあるといえるでしょう。
本書の著者の1人、イタマール・サイモンソン氏は、スタンフォード大学の教授。消費者の意思決定に関する世界的な権威と評されています。
もう1人の著者、エマニュエル・ローゼン氏は、ベストセラーとなった『クチコミはこうしてつくられる』(日本経済新聞出版社)の著者。同書で「口コミ・マーケティング」の時代を予見し、後に実現したことで注目を集めました。
そんな2人がタッグを組んだ『ウソはバレる』。定説が通用しない時代に、消費者から選ばれるための「影響力の公式」を示した本書は、マーケターの方々にぜひお薦めしたい1冊です。