イギリスでは、子どもたちが横断歩道を渡る際、大人たちは特に「ゆっくり歩きなさい」と指導します。日本ではどうでしょう。(中略)子どもたちが横断歩道を渡る時、「早く早く」と誘導しています。
これは、リスクに対する考え方の違いからくるものです。
解説
日英のリスクに対する考え方は異なる、と国際政治学者の中西輝政氏は言う。
例えば、日本では、道路を急いで渡ることで、リスクにさらされる時間を少しでも短くしようと考える。
一方、イギリスでは、道路を横切ることには元々リスクがあり、急いで渡ればつまずきやすいなど、さらに危険性が増すと考える。そうした余計なリスクを減らし、走ってくる車に注意しながら、落ち着いて横断させようという考え方だ。
つまり、日本人は時間という軸に非常に神経質だといえる。これに対し、注意力や精神の平衡ということに価値を置くのがイギリス流である。
また、日本では「今日できることは明日に延ばすな」というが、イギリスでは「明日やってもいいことを今日急いでやってしまおう」とはしない。
これは、イギリス人の1つの哲学だ。
いいアイデアが浮かばない時は、そこで悩むのをやめ、翌日にもう一度考えてみる。すると、いいアイデアが浮かぶことがある。
イギリス人は、全てにこの考え方を当てはめる。時間を置いて見たら、全く別のものが見えてくるという認識である。
イギリス人は重要な決断を迫られても、決して即断しない。「情報は早く、行動は遅く」。これが彼らの行動指針である。情報を取るのは早い方がいいが、決断は急いで下さず、少し間を置くのだ。
即断した場合、その時の精神状態によって誤った判断をしてしまう危険性もある。しかし、例えば一晩置くことで、より良い状態で決断できる可能性が高まる。また、いたずらに一時的な情報に踊らされるという可能性も低くなるのである。
編集部のコメント
あらゆる情報が世界中を一瞬で駆け巡る現代社会において、情報の受け手はそれらをどう読み、活かせばよいのか? その実践的な活用術を解説した本が、この『情報を読む技術』です。
著者の中西輝政氏は、国際政治学者。1990年には石橋湛山賞を、1997年には『大英帝国衰亡史』(PHP研究所)で毎日出版文化賞および山本七平賞を受章するなど、その論考や著作は高く評価されています。
TOPPOINTライブラリーにおいても、上述の『大英帝国衰亡史』や、『本質を見抜く「考え方」』(サンマーク出版)など、氏の著書を多数収録しています。
中西氏は本書の「あとがき」で、自前の情報力を身につけることの大切さについて語っています。
現代のような変化の激しい時代には、昨日には常識だったことが、今日には非常識になっていることが珍しくありません。そんな中、「周りの人もみな、そういっている」といった情報感覚では、“情報敗者”になってしまいかねない、と氏はいいます。
また、情報の発信者が、信頼に足る伝え手であるとは限りません。世の中に氾濫する情報の中には、間違っていたり、受け手を特定の方向へ誘導する意図を含んでいたりするものも多々あります。
そうした環境にあっては、情報をどう捉え、意味づけし、活用するかが、これまで以上に重要な意味を持つことになります。
種々雑多な情報をただ鵜呑みにするのではなく、ウラに隠された意図まで含めて読み解く――。『情報を読む技術』は、時に「情報オンチ」とも評される日本人にそのためのヒントを提供してくれる書です。