「俺は働き盛りの大半を、世のため人のためにつくしてきた。ところが、どうだ ―― 俺の得たものは、冷たい世間の非難と、お尋ねものの烙印だけだ」
と、嘆いたのは、かつて全米をふるえあがらせた暗黒街の王者アル・カポネである。
解説
アル・カポネほどの極悪人でも、自分では悪人だと思っていなかった。それどころか、自分は慈善家だと考えていた。世間は彼の善行を誤解しているのだ、というのである。
人は、たとえ自分がどんなに間違っていても、決して自分が悪いとは思いたがらないものだ。これは悪人だけの話ではない。我々もまた同じである。
心理学者ハンス・セリエは、こう言う。
「我々は他人からの賞讃を強く望んでいる。そして、それと同じ強さで他人からの非難を恐れる」
だから、もし他人を非難したくなったら、アル・カポネの話を思い出すといい。
人の過ちを正したりすると、相手は逆にこちらを恨む。人を非難するのは、天に向かって唾するようなもので、必ずわが身に返ってくる。
人を非難することは、どんな馬鹿者でもできる。そして馬鹿者に限ってそれをしたがるものだ。
人を動かす原則の第1は、「批判も非難もしない」である。人を非難する代わりに、理解するように努めよう。なぜ相手がそんなことをするのか、よく考えてみよう。その方がよほど得策である。
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〈 人を動かす3原則 〉
- 【原則①】批判も非難もしない。苦情も言わない。
- 【原則②】率直で、誠実な評価を与える。
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人は例外なく、他人から評価されたいと強く望む。この事実を忘れてはならない。人をほめ、評価してやれば、相手の心を手中に収められる。
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- 【原則③】強い欲求を起こさせる。
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人の行動は、心の中の欲求から生まれる。ゆえに、人を動かすには、相手の好むものを話題にし、それを手に入れる方法を教えてやることだ。
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編集部のコメント
人間関係に関する研究の先覚者として知られる、D・カーネギー。その代表作であり、あらゆる自己啓発本の原点ともいえるのが、人づきあいの根本原則を説得力豊かに説き起こした『人を動かす』です。
原題は、『How to Win Friends and Influence People』(友をつくり人を動かす法)。1936年に初版が発行されると瞬く間にベストセラーとなり、累計1500万部を売り上げました。そしておよそ半世紀後の1981年には、時勢の変化を織り込んだ改訂版が発行されます。TOPPOINTでは、この改訂版の邦訳であり、500万部を超すロングセラーとなった『人を動かす[新装版]』の要約をご紹介しています。
約80年前に著された本書が、なぜ今日まで読まれ続けているのでしょうか。
「あとがき」によると、カーネギーはアメリカでYMCAの弁論術講座を担当したのち、デール・カーネギー研究所を設立、話術と人間関係の新分野を開拓します。アメリカ国内のみならず、欧州でも講習会を開き、大企業の顧問として社員の教育にもあたりました。彼の指導を受けた人は、20数年間で1万5000人以上にのぼったといいます。
そんなカーネギーですが、そこに至る道のりは決して平坦ではありませんでした。教師、セールスマン、会社員、行商人など様々な仕事を経験、一時は地方まわりの劇団にも所属したといいます。
世の辛酸をなめつくし、社会の裏表を知りつくしたカーネギー。いつの世も変わらない人間の本質を理解していたからこそ、彼の言葉には人を納得させる力があるのでしょう。そうした意味で、本書が示す原則は、現代に生きる私たちにも十分通用する内容となっています。
なお、TOPPOINTライブラリーでは、『人を動かす2 デジタル時代の人間関係の原則』(D・カーネギー協会 編/創元社)の要約を掲載しています。デジタル・メディア全盛の現代に、カーネギーの普遍的な原則をどう適用すればよいかを説いた、いわば『人を動かす』の“21世紀版”です。また、カーネギーの名著『道は開ける 新装版』(創元社)、『カーネギー 話し方入門〈新装版〉』(創元社)の要約も掲載しています。