どんな論理であれ、論理的に正しいからといってそれを徹底していくと、人間社会はほぼ必然的に破綻に至ります。
解説
数学者の藤原正彦氏は、今日の世界を見渡して、次のように指摘する。
今、日本は荒廃しているとよく言われる。だが、世界中の先進国は皆、似たような状況である。核兵器、犯罪やテロは確実に広がっている。家庭崩壊や教育崩壊も、先進国共通の現象である。
この荒廃の真因は、一体何か?
それは西欧的な論理、近代的合理精神の過信に他ならない。
論理や合理は重要だが、人間はそれだけではやっていけない。にもかかわらず、先進国は論理を徹底し、様々な破綻を生じさせてしまった。
例えば、帝国主義にはきちんとした論理が通っている。「お前たちは劣等な民族であり、自ら国を治められない。だから、優秀な民族である英国人が統治してあげる」という親切な論理である。
1900年の時点の英国には、人格者も聖職者もいたはずだ。しかし、論理がきちんと通っていれば、後で振り返ると非道に思えることでも、なぜか人間はそれを受け入れてしまうのである。
現在、世界を覆っている「競争社会」や「実力主義」も同じようなものである。
もちろん、これらは組織の繁栄に寄与する。どんな組織でも、構成員を競わせ、無能な者をクビにして、有能な者のみを残すのが一番いい。論理的には筋が通っている。
だが、実力主義を徹底したらどうなるか。同僚は全員ライバルになり、ベテランは新入りにノウハウを教えなくなる。その結果、組織は非常に不安定になり、穏やかな心では生きていけない社会になってしまう。
好例が米国である。人口当たりの弁護士の数は日本の20倍、精神カウンセラーの数は50~60倍にのぼる。競争社会を徹底すると、そういう人々を大量に必要とする社会になるのである。
編集部のコメント
『国家の品格』は、欧米社会の根底にある「論理」、そして「自由」「平等」といった概念の限界を明らかにするとともに、日本古来の「情緒と形」の大切さを述べた本です。本書は2005年の刊行後、累計270万部超のベストセラーとなりました。
著者は、数学者の藤原正彦氏。「はじめに」によると、氏はアメリカの大学で教鞭を執っていた30代の頃、論理の応酬で物事が決まるアメリカ式の考え方に染まっていたといいます。そして帰国後もアメリカ流を通して、自分の意見を強く主張したり、改革を声高に唱えたりしました。
ところが、そのやり方は日本ではうまくいきませんでした。この時、氏は数学者ながら「論理」の力を疑うようになったといいます。そして、「情緒」や「形」というものの意義を考えるようになったそうです。
さらにその後、氏が「情緒」や「形」の重要性をさらに強く感じるようになった出来事があったといいます。それは40代前半の頃、イギリスのケンブリッジ大学で1年ほど過ごした経験です。そこの人々は伝統を重んじ、論理を強く主張する人は煙たがられていました。アメリカとは違い、イギリスでは慣習や伝統、誠実さやユーモアの方が重んじられていたのです。
藤原氏によれば、日本は世界で唯一の「情緒と形の文明」。にもかかわらず、国際化という名のアメリカ化に踊らされてきた日本人は、この誇るべき「国柄」を長らく忘れてきたと指摘します。
いま日本に必要なのは、論理よりも情緒、英語よりも国語、民主主義よりも武士道精神であり、「国家の品格」を取り戻すことである ―― 。そう提言する本書は、日本が真に大事にすべきものが何かを教えてくれます。日本人にとって、自信を与えてくれる1冊といえるでしょう。




