企業は広告の採用を決める前に、次のように自問すべきだ。
同じ金額をより良い製品づくりやサービスの向上、ブランド経験の強化に振り向けたとき以上に、広告によって満足した顧客を生み出すことができるだろうか、と。
解説
広告の目的は、製品についての事実を伝えることではなく、「ソリューション」や「夢」を売ることである。すなわち、「顧客の願望」に向けて発し、その結果、「売上に結びつく」のが最高の広告である。
「我々は工場で口紅を作り、広告で夢を売っている」 ―― 化粧品メーカー、レブロンの創業者チャールズ・レブソンのこの言葉を、ぜひ胸に刻んでおくべきだ。
しかし、単に夢の実現を唱えても、消費者の信用は得られず、購買にはつながらない。そうなると、広告は資金の無駄遣いになってしまう。
上掲の言葉は、このことを踏まえたものである。企業は、高額な広告キャンペーンに資金をつぎ込むよりも、どこにも負けない製品を作るために、今以上の資金と時間を投じるべきなのだ。なぜなら、最も効果的な広告は、「満足した顧客」によってなされるからだ。
満足した顧客は、広告など行わなくても再び買ってくれる。そして、企業に代わって広告活動を行ってくれるのである。
編集部のコメント
「近代マーケティングの父」として知られるフィリップ・コトラー氏は、世界恐慌下の1931年、貧富の格差が開き治安悪化が進むシカゴに生まれました。「世の中を良いものへと変えていきたい」という思いから、社会課題を科学的に捉えるマーケティングに魅了され、研究の道へ進みます。その後、ノースウエスタン大学ケロッグ経営大学院のS・C・ジョンソン特別教授として世界を牽引。代表作『マーケティング・マネジメント』『マーケティング原理』は、いずれも1000ページ近い大著で、MBAの学生やマーケティング研究者の必読書ともいわれています。
そんなコトラー氏が「忙しいビジネスパーソンにもマーケティングを伝えたい」という思いから、重要な80のコンセプトを厳選し、コンパクトにまとめた書が『コトラーのマーケティング・コンセプト』です。広告、ブランド、差別化、プロモーション、競争優位といったキーワードを、具体例や氏のエピソードも交えながらわかりやすく解説。マーケティング初心者でも直感的に理解できる内容で、実務にも即応用できます。
各コンセプトはアルファベット順に並び、それぞれ独立して読めるため、辞書のように使えるのも特長です。巻末の索引も充実しており、気になるテーマをすぐに調べることができます。
原著の刊行は2003年ですが、コトラー氏が記した原理原則 ―― 例えば「広告の目的は、顧客にソリューションや夢を売ることである」、「品質や効率が差別化の決め手とならない今、卓越した“独自性、創造性”が勝利のカギとなる」等々 ―― は、今なお通用するものばかりです。マーケティングをこれから学びたい人、あるいは知識を整理し直したいビジネスパーソンにとって、座右に置きたい一冊となるでしょう。
なお、TOPPOINTライブラリーには、コトラー氏がアイデアを生み出す思考法を説いた『コトラーのマーケティング思考法』(東洋経済新報社)や、マーケティングを失敗に導く「大罪」と、それへの対応策を説いた『マーケティング10の大罪』(東洋経済新報社)、コトラー氏の初の自伝『マーケティングと共に フィリップ・コトラー自伝』(日本経済新聞出版社)など、コトラー氏の名著の要約を多数収録しています。