僕は逆境にある人に、もう少し爪先立ちをして前を見ることを切に願う。
解説
せっかくこの世に生まれてきたのだから何かしたいと思えば、必ず意のままにならないことが起こるものだ。逆境というのは、多くの場合、これを意味するのではないか。
そうであるなら、逆境は世の中の全ての人が逃れられないもの、ということになる。
そして、逆境に陥った時、人は精神的に様々な影響を受ける。中でも、「ヤケを起こす」ことには警戒が必要だ。逆境を切り抜けようとせず、ヤケになって堕落する者が世間にはたくさんいる。
ヤケになるのは気の短い人に多く、遠い先々まで考えられる人はヤケを起こしにくい。教育を受けた人、豊かな経験を持つ人にはヤケになる者は少なく、反対に無教養の人、経験の少ない人、言い換えると若い人にヤケになる者が多い。
これは、人物としての“背丈”が低いため、前方が見えないからだ。そんな時は“爪先立ち”をして、「さて、この先は…」と考えれば、前途が少しは見え、光も希望も認められるはずである。
ヤケにならず全力で努力する者は、遅かれ早かれ逆境から浮かび上がる。重荷を背負ってこれに耐える者は、世間が必ずどこかで認めてくれる。
苦しみはいつまでも続くものではない。逆境にある人は絶えず「もう少しだ、あともう少しだ」と思いながら進むことだ。
編集部のコメント
人生はなかなか思い通りには進まないものです。仕事でも、予期せぬ失敗や困難に直面することがあります。では、そんな逆境に私たちはどう立ち向かえばよいのでしょうか。
その答えを考えるうえで示唆を与えてくれるのが、新渡戸稲造(1862-1933)の『逆境を越えてゆく者へ 爪先立ちで明日を考える』です。
『武士道』の著者として知られる新渡戸は、教育者、農学者、法学者として幅広く活躍し、国際連盟事務局次長も務めた人物です。新渡戸は、青少年の精神修養や人格鍛錬のため、雑誌『実業之日本』に自らの体験を交えながら平易な言葉で様々な文章を綴りました。それらをまとめた名著が、1911年刊行の『修養』と1916年刊行の『自警』です。
『逆境を越えてゆく者へ 爪先立ちで明日を考える』は、この2冊から「苦難の時をいかに生きるか」をテーマとした文章を精選し、現代語にして再編集したものです。東日本大震災を機に編まれた本書には、約100年前に書かれた内容でありながら、困難をいかに克服するか、そのためにはどんな修養をすべきかといった、今にも通じる教えが詰まっています。
特にビジネスリーダーが注目したいのは、思い通りにならない状況で「どう自分を保ち、前へ進むか」を説いている点です。組織の変革、予期せぬ失敗、厳しい意思決定…。リーダーには常に逆境が付きまといます。そんな時に必要なのは、目先のテクニックだけではありません。上掲の通り、「もう少し爪先立ちをして、前を見ること」です。
苦しみはいつまでも続くものではない ―― 。そう教えてくれる本書は、苦境にある人に勇気を与えるだけでなく、自分の生き方や仕事への姿勢を問い直させてくれる1冊です。困難に直面した時、あるいは次の一歩を踏み出す力が欲しい時に、ご一読をおすすめします。




