マサチューセッツ総合病院の研究によると、わずか8週間の瞑想で扁桃体が縮小したという。つまり、マインドフルネスを実践すれば、刺激に過剰に反応したり、怒りに身を任せてしまうことを防げるのだ。
解説
近年、マインドフルネス瞑想が、人の行動だけでなく、身体や脳にまで影響を与えることが、科学的に明らかになった。研究者たちは、脳が活性化している部分をリアルタイムで表示する機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)を用いて、脳がたえず変化し、訓練が可能であることを発見した。
では、マインドフルネスは脳をどう変えるのか。
大まかに言うと、マインドフルネスは前頭前皮質の活動を盛んにする。前頭前皮質は、判断、決定、計画など、高次の思考が行われる場所だ。また、私たちが思いやりや共感、優しさなどを感じる時にも活性化する。この部位をfMRIで測定した結果、長い間マインドフルネス瞑想をしてきた人は皮質領域が厚いことがわかった。
科学者が特に注目したのは、扁桃体 ―― 脳の真ん中あたりにあるアーモンド状の部位である。
扁桃体は、ストレスに対する反応に重要な役割を果たしているようだ。人がストレスにさらされると、脳の海馬と扁桃体が活性化される。五感からの情報を受け取った海馬は、目の前の状況を危険と判断すると、扁桃体を活性化させる。そして扁桃体が活性化すると、闘争・逃走反応が発動される。体内にストレスホルモンを発生させ、血圧を上げ、私たちの判断力を鈍らせるのである。
この時、人は怒ったり過剰に反応したりして、状況を悪化させてしまいがちだ。神経科学者はこれを「扁桃体によるハイジャック」と呼ぶ。だが、マインドフルネスを実践していれば、扁桃体のハイジャックに対して大きな抑止力になるのだ。
編集部のコメント
アップル、グーグル、ツイッター、リンクトイン…。
アメリカの名だたる企業が導入・実践している「マインドフルネス」。これは、瞑想し、頭の中に生じる様々な考えを動じずに観察することで、心を強くしようとする、いわば“心のエクササイズ”です。
『マインドフル・ワーク 「瞑想の脳科学」があなたの働き方を変える』は、このマインドフルネスの科学的根拠を明らかにし、職場での活用例を示した書です。
著者は『ニューヨークタイムズ』の記者で、M&A、コーポレート・ガバナンス、ウォール街の動向などを専門にするデイヴィッド・ゲレス氏。大学3年の時にインドに留学して瞑想を学んで以来、ビジネス記者として活躍するかたわら、約20年にわたってマインドフルネスを実践してきた人物です。
『マインドフル・ワーク』では、そんな著者自身の体験や瞑想が心身にもたらす影響、ストレスを軽減する方法、集中力を取り戻す方法などが事例を交え具体的に説かれています。マインドフルネスに興味を持つ人に、何をどのように始めるべきかをわかりやすく教えてくれる、刺激的なガイドブックともいえます。
紹介されるエクササイズの数々は、多忙な情報社会を生きる現代人が、働き方とビジネスを根本から見直し、心の平穏を取り戻す上で大いに役立つことでしょう。