2001年9月11日に世界を揺るがした事件は予見可能だったのか、それとも、驚くべきことだったのか。スキャンダルにまみれたエンロンの破綻にいたる崩壊はどうか。我々は、これらがいずれも驚きであると同時に予測可能だったと考えている。予見可能な危機だったのだ。
予見可能な危機とは、ある事象の発生とその帰結を予測するのに必要な情報すべてに、前から気づいていたにもかかわらず、個人や集団が驚きととらえる事象ないし一連の事象としよう。
解説
予見可能な危機は、なぜ生じてしまうのか。
その原因の1つは、「認知バイアス」だ。認知バイアスは、長期的には自分や組織、社会全体を傷つけるような非合理的行動を、人間にとらせる。
- 一般的な認知バイアスには、次の5つがある。
- ①我々には「楽観幻想」が備わっており、問題が存在しない、あってもアクションをとるほどひどくはないという判断を導く傾向がある。
- ②我々は「出来事を自己中心的に解釈」する。浮上しつつある危機の解決策を考える時、我々は自分に都合よく手柄や責任を配分する。
- ③我々は「将来を過度に軽視」する。災害が起こるのは遥か先だと思い込み、今それを予防しようと行動を起こす勇気を縮ませてしまう。
- ④我々は「現状を維持したがり」、大きなメリットをもたらすことでも、それに伴う犠牲を認めない傾向がある。
- ⑤大多数の人は、個人的に経験していないとか、「鮮明なデータ」で目撃していない問題の予防への投資はしたがらない。自分が重大な損害を被った後や、危険が迫ってからでなければ、問題に取り組まないことが非常に多い。
編集部のコメント
『予測できた危機をなぜ防げなかったのか? 組織・リーダーが克服すべき3つの障壁』は、ハーバード・ビジネススクールの教授2人が、9.11やエンロン破綻などを基に、世界を揺るがすような危機が起きる要因をひも解いた1冊です。
著者らは、多くの危機は予測可能であったにもかかわらず、防げなかったといいます。
では、なぜ行政や企業のリーダーたちは手を打てなかったのでしょうか。本書はその理由を、3つの要因 ―― 人間の認知バイアスという「認知要因」、組織の構造的欠陥による「組織要因」、そして自分たちの利得だけを考える「政治要因」から解き明かします。
例えば、問題の存在に気づいていながら、後回しにしてしまう。現状を維持しようとして、危機に備えようとしない。現状の恩恵を受けている一部の者が、改革を阻止する…。そうした積み重ねが、危機を現実のものにしていくというのです。
本書はこうした危機を防ぐ方法として、問題を正しく認識し、課題の優先順位を立て、限られた資源をどう動員するかという、実践的な思考の枠組みを提示しています。
不確実性の時代だからこそ、根深く存在する組織の問題を棚卸しし、何ができるのかを冷静に見極める必要があるでしょう。本書は、経営者やリーダーにとって、危機管理の原点を再確認させてくれる1冊として、一読をおすすめします。




