哲学者のラルフ・ワルド・エマーソンは、あるとき息子と一緒に一頭の子牛を小屋へ入れようとした。だがどうしてもうまくいかない。後ろから押しても、前から引いても、子牛は4本の脚を踏ん張って抵抗する。
2人が困っていると、農家の手伝いの娘がやってきた。彼女にはすぐれた評論や本を書く知識はなかったが、この問題を解決できる知恵があった。子牛のそばへいくと、その口に自分の人差し指をふくませた。そしてその指を吸わせながら、子牛をやさしく小屋のなかまで引いていったのである。
娘が知っていたこと、そして頭脳明晰な哲学者が忘れていたことは何だろう。
彼女は子牛の核心的な欲求のひとつが食物であることを知っていた。その欲求を呼びだすと、子牛は喜んで彼女についていったというわけだ。
解説
人を動かしたければ、まずその人の中に深い欲求を起こさなければならない。これは、どんな相手を扱う時にも通用する普遍的な真実だ。
エマーソンと息子は、自分たちの欲求しか頭になかった。早く子牛を小屋へ入れて、昼ごはんを食べたいとしか思っていなかった。
一方、牧草地で幸せに草をはんでいる子牛にとっては、せっかくの食事を切り上げて、狭い小屋に入るなどもってのほかだ。しかし娘が現れ、指を吸わせたとたん話は変わった。子牛は温かいお乳が待っていることを思い出したのだ。
上掲の話は、相手を動かして行動を取らせるのに力はほとんど必要がないということを教えてくれる。人を扱う時には、相手が何を欲しがっているのかを見つければ、必ず成功する。