2025.2.17

編集部:小村

トランプ政権が進める米国第一主義や反リベラル的な政策 その背景を知るための1冊

トランプ政権が進める米国第一主義や反リベラル的な政策 その背景を知るための1冊

 国境に国家非常事態を宣言、「DEI」(多様性・公平性・包摂性)を推進する政府内の取り組みを廃止、世界保健機関(WHO)や「パリ協定」からの離脱、反キリスト教的な偏見の根絶…。
 これらは、米国のドナルド・トランプ大統領が1月20日に就任して以来、署名した「大統領令」の一部です(「トランプ氏が大統領令に続々署名 一目で分かる政策一覧」/朝日新聞HP)。
 こうした政策からは、トランプ大統領が前回の政権時に掲げていた「米国第一主義」や、民主党政権が進めていた「リベラルな政策」からの大転換がうかがえます。

 トランプ政権は、この後どこに向かうのでしょうか? それを知るためには、前回の政権時に書かれた本が参考となるでしょう。「今週のPick Up本」でも、「『もしトラ』の前に読んでおきたい 大統領時代のトランプ政治の舞台裏」として『FEAR 恐怖の男 トランプ政権の真実』(ボブ・ウッドワード 著/日本経済新聞出版社 刊)を、また「トランプ大統領再選! 前政権時の内幕を暴く本から 人々の“怒り”を引き出す彼の戦略を改めて考える」として、『RAGE 怒り』(ボブ・ウッドワード 著/日経BP・日本経済新聞出版本部 刊)をご紹介しました。

 今回は、そうした参考書の1冊として、トランプ政権の米国第一主義や反リベラルといった動きの背後にある、文化的な“反動”――改革や革新に反対して、旧体制の維持を図ろうとする動き――の実態を明らかにした書籍を取り上げます。2020年刊行の『白人ナショナリズム アメリカを揺るがす「文化的反動」』(渡辺靖 著/中央公論新社 刊)です。
 著者の渡辺氏は、慶應義塾大学教授。社会人類学の博士号を持つアメリカ研究者です。本書では白人ナショナリストたちへのヒアリングや資料収集を通して、彼らの論理や世界観を多面的に考察しています。

トランプ大統領と「白人ナショナリスト」との親和性

 「白人ナショナリズム」といえば、まずイメージされるのは白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン(KKK)」ではないでしょうか。しかし、本書によれば、白人ナショナリスト団体はKKK以外にも数多く存在し、力点を置く課題や活動スタイルによって「反移民系」「反LGBTQ系」「反イスラム系」「ネオナチ系」等々に分けられるといいます。
 著者は、こうした白人ナショナリズムに見られる「ペイリオコン(原保守主義者)」の世界観が、トランプ大統領の掲げる「米国第一主義」と親和性が高いと説いています。
 ペイリオコンの特徴は、本書でこう書かれています。

 

ペイリオコンの特徴は「黄金の50年代」と称される第二次世界大戦後の社会を、将来回帰すべき理想と捉える点だ。その根底には、米国が戦後の繁栄を謳歌し、公民権運動以前の、白人のミドルクラス(そしてキリスト教)中心の社会秩序を維持していた時代への郷愁がある。そして、その米国を破壊した要因としてグローバル化(自由貿易、移民の流入、多国間枠組みなど)が槍玉に挙げられる。

(『白人ナショナリズム』 16ページ)

 

 ちなみに、ペイリオコンの系譜に連なる人物の1人として、本書では前回のトランプ政権時に大統領上級顧問兼スピーチライターだったスティーブン・ミラー氏を挙げています。氏は、今回のトランプ政権では大統領次席補佐官を務めており、米国内で拘束した不法移民をキューバにあるグアンタナモ米海軍基地に送還するなど、過激な移民政策を推し進めています。

 また、このペイリオコンの立場に近い政党として、本書では「米国自由党(AFP)」を紹介しています。同党は資本主義と共産主義の両方に反発し、「自由、主権、アイデンティティ、伝統」を重視する白人ナショナリスト政党です。
 彼らは「外来のイデオロギーを押し付けられることなく暮らす自由」や「WTO(世界貿易機関)やIMF(国際通貨基金)といった国際機関からの自由」を謳う過激な綱領を提示しています。こうした部分にトランプ大統領を想起した著者は、米国自由党の代表、ウィリアム・ジョンソンにこう尋ねています。

 

ジョンソンに「トランプ氏は共和党よりも米国自由党のほうが合っているのでは?」と尋ねると、「確かに、大統領になってから、私たちの立場により近くなっていると感じます」と微笑む。

(『白人ナショナリズム』 23ページ)

 

 なお、白人ナショナリストたちは、自分たちが大々的に支持を表明するとトランプ大統領に迷惑がかかると考え、表立って支持することは控えていたといいます。

白人ナショナリズムは今後どうなるのか

 白人ナショナリズム運動の今後の見通しは、明るいものではありません。著者がヒアリングを行った白人ナショナリストや人権団体関係者らは、その多くが、白人ナショナリズムのさらなる勢力増大や過激化の可能性を指摘したといいます。
 その理由の一端は、米国で白人の数が減少していくことにあります。本書によれば、2045年までに米国における白人の人口は過半数を割るといいます。
 著者は、ある人権団体の担当者の話として、次のようなコメントを紹介しています。

 

「レーガン政権が発足した頃、カリフォルニア州の人口の約3分の2が白人でした。それが今では約3分の1です。その一方で、カリフォルニアは全米で最も白人ナショナリズムが活発な地域の1つになりました。白人人口が減るにつれ、白人ナショナリズムは増大していったのです。この事実は米国の今後を考えるうえで示唆的だと思います」

(『白人ナショナリズム』 187~188ページ)

 

 これからさらに先鋭化する可能性のある白人ナショナリズム。トランプ政権や、以後の政権を担う人々は、それにどのように対処していくのでしょうか。判断を誤れば、さらに激化することになりかねないように思います。

トライバリズム(政治的部族主義)の時代

 本書では、白人ナショナリズムが隆盛する背景として、米国社会がトライバリズム(政治的部族主義)の状態に陥っていることを指摘します。トライバリズムとは、人種や宗教、ジェンダー、教育、所得、世代、地域などの差異に沿って、各自が自らの集団の中に閉じこもることをいいます。
 こうしたこと自体は以前からありましたが、著者は、近年の新しい問題として、自らの部族を「被害者」「犠牲者」とみなして、他の部族を制圧しようとする傾向があることを述べています。

 

政治的指導者は国民融和を目指すのではなく、特定の部族(=支持基盤)の利益のみを重んじ、抗う部族を徹底的に敵視する。そのためには、専門家の知見をものともせず、然るべき手続きや不文律も軽んじ、そのことを「強い指導者」の証として誇示する。対外的にも同じで、多国間主義を疎んじ、自国第一主義を鼓舞する。

(『白人ナショナリズム』 189ページ)

 

 民主主義国家において、こうした政治的指導者が米国のトランプ大統領をはじめ、ヨーロッパにおいても見られる状況の中、民主主義国家はトライバリズムを克服できるのだろうか、と著者は疑問を投げかけています。

 『白人ナショナリズム』が示す様々な問題は、ますます切実なものとなって、世界に現れています。移民の問題など、もはや日本人が「対岸の火事」のように傍観できる問題ではなくなってきているといえます。
 本書の「あとがき」でも触れられているように、白人至上主義者の指導者的存在といわれるジャレド・テイラーが語った一言は、私たちが深く考える必要のあるものです。

 

「もし日本に外国人が数百万単位で入ってきたら、日本人は違和感を覚えませんか? それに異義を唱えたとき、「日本人至上主義者」や「人種差別主義者」というレッテルを貼られたらどう思いますか?」

(『白人ナショナリズム』 198ページ)

 

 その時、自分は白人ナショナリストのように振る舞うのか、もしくは、そうではない別の振る舞いをすることができるのか――。こうしたことを考えるためにも、改めて読んでいただきたい1冊です。

(編集部・小村)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2020年8月号掲載

白人ナショナリズム アメリカを揺るがす「文化的反動」

トランプ政権誕生後の米国、そして近年、欧州各地で目に付くのが「白人ナショナリズム」だ。自国第一主義、白人中心の社会秩序の維持、反移民などを訴え、勢力を伸ばしつつある。その論理、心理はどのようなものか。今後どうなるのか。社会の分断を深め、リベラルな国際秩序を揺るがす、この文化的反動の動向を考察する。

著 者:渡辺 靖 出版社:中央公論新社(中公新書) 発行日:2020年5月
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