2023.2.13

編集部:小村

創造性も生産性もアップ! “ウェルビーイング”で幸せに働ける職場作り

創造性も生産性もアップ! “ウェルビーイング”で幸せに働ける職場作り

 GDPならぬ、GDWという言葉をご存じでしょうか。
 GDWは、Gross Domestic Well-beingの略称で、「国内総充実」という指標を意味します。
 2021年3月に、日本経済新聞社や公益財団法人Well-being for Planet Earth、そして参画企業により創設された「日本版Well-being Initiative」によれば、その意味は次のようなものです。

 

国内総充実(Gross Domestic Well-being、略称: GDW)は、既存のGDP(国内総生産)では捉えきれていない、社会に生きる一人ひとりのウェルビーイングを測定するための指標です。(中略)GDPは量的拡大を目指し、物質的な豊かさを測る指標であったのに対して、GDWは質的向上をねらい、実感できる豊かさを測定する指標であるというのが大きな違いです。

(「日本版Well-being Initiative」 WEBサイト)

 

 日本版Well-being Initiativeによれば、ウェルビーイングは、客観的指標(GDPや平均寿命など)と主観的指標(幸福感や満足感など)から測定されるといいます。そして同イニシアチブでは、個人の実感としての豊かさを主軸とする主観的指標について共同研究し、企業経営に活かすことを目指しています(「日本版Well-being Initiative始動」/日本経済新聞社プレスリリースPRTIMES2021年3月19日)。
 こうしたウェルビーイングを重視する姿勢は、近年注目を集めている人的資本経営においても見られます。例えば、1月30日公開の「今週のPick Up本」で取り上げた、経済産業省が2022年5月に公表した「人的資本経営の実現に向けた検討会 報告書~人材版伊藤レポート2.0」。このレポートの「社員エンゲージメントを高めるための取組」という項目の中で、社員のウェルビーイングを高めることの重要性が指摘されています。
 
 経営者や管理職にとって、社員の幸福感や満足度を上げる環境作りは喫緊の課題といえるでしょう。しかし、それをどのように実践すればよいのでしょうか。
 そこで今週は、職場のウェルビーイング向上の参考となる『幸せな職場の経営学 「働きたくてたまらないチーム」の作り方』(前野隆司/小学館)をPick Upします。同書は、「幸せな職場で人々はどう変わるのか」をテーマに、働く人たちの幸福度を高める企業の仕組み作りや、職場の環境作りについて解説した本です。

 著者の前野氏は、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授にして、「幸福学」の第一人者。幸福学とは、人が幸福に生きるための考え方や行動を科学的に検証し、実践に活かすことを目的とした学問のことです。

 そもそも、人はどんな状態が「幸せ」だと言えるのでしょうか? 前野氏は、日本人1500人にアンケートを行い、その結果を分析しました。そこから導き出されたのは、人が幸せになるために必要な「4つの因子」です。

 

「やってみよう!」因子(自己実現と成長)
「ありがとう!」因子(つながりと感謝)
「なんとかなる!」因子(前向きと楽観)
「ありのままに!」因子(独立と自分らしさ)

(『幸せな職場の経営学』 25ページ)

 

 それぞれの因子の詳しい説明は本書をお読みいただくとして、この4因子がバランス良く備わっている状態がより幸せな状態である、と前野氏は述べています。
 では、社員を幸せにするためには、具体的にどのような取り組みが必要なのでしょうか。前野氏は、前述の4因子を個人主義、集団主義という対立軸で捉えることを提案します。

 

どちらかと言うと個人主義的な因子は、第1因子(自己実現と成長)と第3因子(前向きと楽観)、そして第4因子(独立と自分らしさ)です。これらは“個”の幸せを目指す「個人主義的ウェルビーイング」と言えるでしょう。一方、第2因子(つながりと感謝)は“皆”の幸せを目指す「集団主義的ウェルビーイング」と言えるでしょう。(中略)個人主義的ウェルビーイングと集団主義的ウェルビーイングという2つの大きな要素をバランス良く高めることが、幸せな組織、幸せな社員を育む重要な手がかりになります。

(『幸せな職場の経営学』 52~53ページ)

 

 前野氏はこう説き、職場でのウェルビーイングを高めるための考え方を解説します。さらに本書では、「幸せな職場の実践例」として、ウェルビーイングに重きを置く経営で業績を向上させた企業を紹介したり、管理職の課題や悩みに対し幸福学や心理学に基づく解決策をQ&A形式で語ったりしています。理論だけではない、職場の課題にすぐに活かせるノウハウがつまった実践的な1冊といえるでしょう。

 

幸福度が高い従業員は、そうでない従業員よりも創造性が3倍高く、生産性は31%高くなるという研究結果があります(心理学者のソニア・リュボミアスキー、ローラ・キング、エド・ディーナーらの研究)。幸福度が高い従業員は、欠勤率や離職率が低いといった研究結果もあります。

(『幸せな職場の経営学』 7~8ページ)

 

 本書が指摘するように、優秀な人材の獲得や生産性向上のために、職場のウェルビーイング向上は欠かせません。そのための一助となる本として、『幸せな職場の経営学』をお薦めします。

(編集部・小村)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2019年8月号掲載

幸せな職場の経営学 「働きたくてたまらないチーム」の作り方

「幸福学」をご存じだろうか。幸せとは何かを科学的に検証し、実践に生かすための学問だ。その第一人者が従業員を幸せにする職場づくりを説く。今後求められるのは、「個人の幸せ」と「皆の幸せ」の両方を大切にする「ウェルビーイングな組織」。社員1人1人が輝きつつ協力し、社長と同じ気持ちで仕事をする組織が強いという。

著 者:前野隆司 出版社:小学館 発行日:2019年6月

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