「カマラ、お前はクビだ!」
2024年11月5日に行われた米大統領選で、共和党のドナルド・トランプ氏が民主党のカマラ・ハリス氏に勝利しました。
大接戦になるとの予想も少なくありませんでしたが、蓋を開けてみると、538人の選挙人のうち312人をトランプ氏が獲得(ハリス氏は226人)。トランプ氏は、ペンシルベニアやミシガンなど、激戦州とされる7つの州すべてで勝利するなど、圧勝といっていい結果を収めました。
今回の選挙で目立ったのが、トランプ氏の攻撃的な発言です。
選挙戦終盤、激戦州の1つで演説した彼は、大観衆の前でこう語りました。
「ハリスって誰だ? 誰も知らない」
「カマラ、お前はクビだ!」
副大統領として4年間務めたハリス氏を捕まえて「誰も知らない」「クビだ!」とは、ずいぶんな言葉です。なぜ、トランプ氏はこうした言動を繰り返すのでしょうか。
今週Pick Upする『RAGE 怒り』(ボブ・ウッドワード 著/日経BP・日本経済新聞出版本部 刊)の冒頭に記された次の言葉は、その理由を探る上で参考になります。
「私は人々の怒りを引き出す。怒りを引き出すんだ。つねにそうだった。それが長所なのか不都合なことなのかはわからないが、なんであろうと、私はそうする」
(『RAGE 怒り』 5ページ)
これは、2016年3月、トランプ氏が著者のボブ・ウッドワード氏らからインタビューを受けた際の発言です。この発言からは、今回の選挙の際、執拗にハリス氏を攻撃した彼の狙いが見えてきます。
「ハリスって誰だ?」と言い放ちますが、当然トランプ氏も彼の支持者も、ハリス氏のことを知らないことなどあり得ません。ですが、ジョー・バイデン政権の4年間で物価高が進行する中、日々の生活に苦しむ米国民の中には、「ハリスは自分たちに何をしてくれた? 何もしてくれないじゃないか。いてもいなくても変わらない」という怒りを覚える人がいても不思議はありません。
トランプ氏の「ハリスって誰だ?」「カマラ、お前はクビだ!」という言葉は、そうした米国民の怒りを、ワンフレーズで引き出したものといえるでしょう。この発言がメディアを通じて拡散されたことは、彼にとっては狙い通りだったのかもしれません。
「長所なのか不都合なことなのかはわからないが」
厄介なのは、トランプ氏が「それが長所なのか不都合なことなのかわからないが」と述べていることです。つまり彼自身、「怒りを引き出す」やり方が良い方に転ぶか悪い結果につながるかは、理解できていないということ。その上で「なんであろうと、私はそうする」と述べているのです。
トランプ氏は「本能で動き、衝動で決断を下す」と評されることがあります。この人物像は、以上のような氏の発言とも合致します。
ただ、トランプ氏が本能的・衝動的なだけかというと、そうとも限りません。本書『RAGE 怒り』では、トランプ氏の意外な素顔にところどころで触れています。
「いいかね」トランプはいった。「国を運営していると、意外なことばかりなんだ。すべてのドアの向こうにダイナマイトがある」(中略)
“すべてのドアの向こうにダイナマイトがある”は、公もしくは内輪で私が耳にしたトランプの発言のなかで、大統領が負っている危険、プレッシャー、責任をもっとも強く自覚している言葉だった。
(『RAGE 怒り』 20~21ページ)
つまり、大統領が負う危険やプレッシャー、責任は十分に理解した上で、それでもあえて「私はそうする」(怒りを引き出す)のが、トランプ氏だということです。
その結果、第一次トランプ政権下では、コロナ禍への対応や対中問題、人種差別など、様々な問題が現れました。その時、現場で何が起きていたのかについては、本書で詳細に語られています。
これらの問題の裏には、「怒りを引き出す」というトランプ氏の行動原理があるのかもしれません。そして、トランプ氏がそのことに自覚的である以上、第二次トランプ政権においても、この傾向が改まることはないでしょう。
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本書の最後を、ウッドワード氏はこんな言葉で締めくくっています。
大統領としてのトランプの業績全体から判断すると、結論はたったひとつしかない。トランプはこの重職には不適格だ。
(『RAGE 怒り』 513ページ)
2020年、前回の米大統領選の直前に出版された本書で、ウッドワード氏はトランプ氏をこう評しています。そして、その後の大統領選で、トランプ氏は民主党のバイデン氏に敗北しました。
しかし、4年の時を経て、トランプ氏は大統領の座に返り咲きました。“重職には不適格”とされた人物が、超大国アメリカの指導者として再び選ばれたのです。
果たして間違っていたのは“アメリカを代表するジャーナリスト”ウッドワード氏なのか、それともトランプ氏の復活を支持した多数の米国民なのか――。
「それが長所なのか不都合なことなのかわからないが」「怒りを引き出す」のがトランプ氏の流儀である以上、答えはすぐに明らかになるでしょう。
それまでの間に、第一次トランプ政権の成果と問題点を、本書を通じて今一度おさらいしてみてはいかがでしょうか。
(編集部・西田)
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