この半世紀間、日本人は外交や防衛については「思考停止」状態を続けてきた。
その象徴が、「国連中心主義」という日本の外交方針である。国連を尊重しようという思想はまことに美しいが、しかし、それは結局、自分の頭では何も考えずに、国連が決めたことなら何でも従いますという話にすぎない。
解説
9・11テロが起きた時、小泉首相は世界に率先して「米国を支持する」と言った。その理由は、「日本に火急のことがあれば、助けてくれるのは米国しかないではないか」ということだった。
そう言われるとたいていの人は黙ってしまうが、それはおかしい。「米国しか味方がいないのは日本外交の大失敗ではないか」と直ちに批判すべきだった。しかし、そういう批判をした野党の代議士や、マスコミ、外交評論家はいない。
なぜ、日本はこのような思考停止に陥ったのか? その原因は日本国憲法にある。
日本国憲法前文には、「日本国民は、(中略)平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」とある。
「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して」というのは、「他国の皆さんの善意にお任せして生きていきます」と言っているに等しい。
この日本国憲法の精神が戦後の日本外交のあり方を決めたようなもので、だから今の外交官たちは相手国と親善を深め、良好な関係を築くのが仕事だと思っている。
本来、他国と親善を深めるのは手段であって、本当の目的はそれを通じて日本の国益を達成し、実現することにある。だが、戦後の日本外交はそういうことを考えるのは止めてしまった。
そして、日本が思考停止したことを諸外国はしっかり見抜いて、「親善関係を築きたいならODA(政府開発援助)を寄こせ!」「良い関係を築くには、まず謝罪をせよ!」などと、堂々と言うようになってきたのである。
編集部のコメント
“友好第一”“親善第一”の外交では、日本は他国に振り回されるだけである。なぜなら、他国にとって外交とは「見えない戦争」だからだ――。
『闘え、日本人 外交とは「見えない戦争」である』は、こうした視点から外交における日本の甘さ、他国のしたたかさを明らかにし、「平和ボケ」した日本人の価値観に一石を投じた本です。
著者の日下公人氏は、ソフト化・サービス化の時代をいち早く先見し、日本経済の名ナビゲイターとして活躍した評論家。未来予測が正確なことで定評のある人物です。
氏の著書は多く、『TOPPOINT』でも『人間はなぜ戦争をやめられないのか 平和を誤解している日本人のために』(祥伝社)、『思考力の磨き方』『数年後に起きていること 日本の「反撃力」が世界を変える』(PHP研究所)等々、いくつもご紹介しています。
日下氏は、「あとがき」で本書を書くに至った経緯を次のように述べています。
日本人の思考は、平和第一に呪縛されている。そんな日本の姿を見て、世界の国々は自国の内政上の困難の解決を日本に押しつけるようになった。このままでは、日本は世界各国の内政失敗の「廃棄物処理場」になってしまう…。
こうした問題意識に基づき、氏は、日本が自らの国益を自らの意志で決定し、公表する必要がある、と説きます。そして、日本の国益を考えるためのヒントとして、本書『闘え、日本人』を著したといいます。
国際社会において、日本が真に自立するには何が必要なのか?
日本が本当に「尊敬される国」に変わるために必要な国際常識を、ユニークな視点でわかりやすく解き明かしてくれる本書は、世界情勢が激変する時代にこそ読まれるべき1冊といえるでしょう。