「ビジョンを欠く」ということの最大の恐ろしさは、時代が変わっているのにそれと気がつかず、相変わらず前の時代のパラダイム(思考の範型)を追い求めることである。
解説
「ビジョンを欠く」ことの一例が、大正末期の日本だ。19世紀的な帝国主義のやり方が変わりつつある時に、日本は相変わらず力による帝国主義を推し進めた。
確かに、かつて米国などは露骨な帝国主義路線をとっていた。1907(明治40)年頃、米国は植民地であるフィリピンの独立運動を徹底的に弾圧した。しかし1918(大正7)年には、帝国主義反対を唱えたウイルソン米大統領の14カ条が発表されて、民族自決が前面に押し出される。そして、第一次世界大戦後には国際連盟が発足する。
こうしてわずか10年ほどの間に、世界の潮流はすっかり変わってしまったのだ。
それに対し日本は、ビジョンを欠いたまま、大きく変化した世界に向き合おうとしなかった。そのため、時代の新たな動きを読めず、結局、古い時代のパラダイムに固執するしかなかった。
つまり、すでに帝国主義的なやり方が終わりを告げていた時代に、植民地を次々に獲得することで国力を増す、という古いやり方を相変わらず推し進めたのである。そしてついには、満州帝国の建国や国際連盟からの脱退という愚かな行動に走る結果となった。
編集部のコメント
長期にわたる経済停滞、人口減少と少子高齢化、生産力の低下…。
日々のニュースが映し出す現状に、思わず「衰退」という言葉が浮かび上がってきます。なぜ日本はこの道を辿るのでしょうか。
文明の衰亡は必然なのか? 衰退から逃れる道はないのか?
国際政治学者の中西輝政氏は、この問いに真正面から挑みました。
本書『なぜ国家は衰亡するのか?』は、約四半世紀前に刊行されたロングセラーです。
ローマ帝国、イギリス、アメリカ、そして日本 ―― 独自の世界を確立した大国が、なぜ栄華の後に衰えたのかを、中西氏は歴史から読み解き、「文明衰退の理」を導き出します。
中西氏は言います。歴史上、外敵の侵入で滅んだ国はない。衰退はその国の「内なる原因」によってもたらされる、と。
その内なる原因の1つが、上掲の一節です。
大正末期の日本も、ビジョンを持とうとしなかったために、新しい時代の動きを読むことができず、結局古い時代のパラダイムに固執しました。その結果、帝国主義を推し進めることになってしまったと、中西氏は論じます。
この洞察は、現代の日本にも鋭く突き刺さります。冒頭で触れた経済停滞や少子高齢化などの課題は、外部からの圧力ではなく、自らの内に潜む弱さ、例えばイノベーションの停滞やリーダー層の腐敗などから生じているのではないでしょうか。
中西氏は、日本が再生するカギは外来の思想ではなく、日本の歴史と伝統に裏打ちされた「日本的価値観」にあると説きます。衰退の歴史を繰り返さないために、私たちはこの警鐘に耳を澄ますべきかもしれません。
本書は27年前に刊行された本ですが、今なお驚くほど鮮やかに現在を照らします。
国家の衰亡を読み解く視点は、企業や組織の停滞、失敗の原因を考察するうえでも大いに参考になります。変化の激しい現代において、自らの組織や仕事のあり方を見つめ直すために、ビジネスパーソンの皆さまにはぜひ一読をおすすめしたい1冊です。




