企業組織の研究者であったメアリー・パーカー・フォレットが、図書館で争う二人の男性のたとえ話を紹介している。
一方は窓を開けたいが、一方は閉めたままにしておきたい。「ちょっとだけ」「半分」「四分の三」と、どれだけ開けるかでいい争っているが、水かけ論である。
そこに女性司書がやってくる。開けたがっているほうに理由を聞くと「空気を入れ換えたいから」といい、閉めたがっているほうは「風が入るのが嫌だから」という。司書はしばし考えたのちに隣の部屋の窓を全開にし、両者の言い分をかなえた。
解説
この話のような状況は、交渉の場面でよく見られる。双方の主張(合意条件)の対立が問題であるように思えて、「条件」のことばかり話し、しばしば膠着状態に陥ってしまう。この司書も、「窓を開けるか・閉めるか」という条件にしか目がいかなければ、解決策は思いつかなかっただろう。
だが、司書は2人の本当の要望、つまり「空気を入れ換えたい」「風が入ってこない方がいい」という「利益」の部分を考えた。このような条件と利益の区別はとても重要である。
交渉で本当に話し合うべきは、食い違っている主張や条件ではなく、お互いの利益(ニーズや要望、関心事)についてだ。対立している条件の背後にある利益に視点を移すと、自分だけでなく、相手側の利益にもなる案が見つかることが多い。
では、相手の利益はどうすればわかるのか?
まず、相手の身になって考える。各々の条件について、「なぜこれを提示しているのか」を考えるのだ。そこで出てきた答えは、相手の利益である可能性が高い。また、互いの様々な利益を整理するには、思いつく端からリストにするといい。
編集部のコメント
共有スペースにおける空調の温度設定から、ビジネスにおける難しい交渉事まで ―― 私たちは日々、望むと望まざるとにかかわらず、何らかの「交渉」の場に立っています。
しかし、そうした交渉の場で、私たちは本当に「望む結果」を引き出せているでしょうか?
本書『ハーバード流交渉術 必ず「望む結果」を引き出せる!』は、世界的ベストセラー『GETTING TO YES』の新訳版です。「交渉学の世界的権威」と称されるハーバード大学のロジャー・フィッシャー名誉教授とウィリアム・ユーリー氏が開発した「交渉術」の理論と手法が紹介されています。
30年以上にわたって読み継がれ、ビジネスリーダーから政治家、司法関係者に至るまで、広く支持されてきた、交渉術の決定版といえる書です。
新訳を手がけたのは、ライフネット生命保険株式会社の共同創業者・岩瀬大輔氏です。
本書冒頭の「訳者のことば」では、ハーバード経営大学院でMBAを取得した岩瀬氏が、現地での学びや体験を交えながら、『ハーバード流交渉術 必ず「望む結果」を引き出せる!』の読みどころをわかりやすく解説しています。
穏便に進めればつけ込まれ、強気に出れば、相手も頑なになる ―― そんな交渉のジレンマに対して、本書は、お互いの正当な利益を確保しながら“最高の成果”を導く方法を提示します。
交渉相手を満足させながら、なおかつその一歩先を行くための「利益を最大にする戦略」や「相手の心をコントロールする言い方」など、実践的なテクニックが詰まっています。交渉が苦手だと感じている方にこそ、ぜひ手に取っていただきたい1冊です。