没後20年、再評価されるドラッカー
「マネジメントの父」と呼ばれた経営学者P・F・ドラッカーにとって、11月は「誕生と死」の月です。1909年11月19日にオーストリアのウィーンで生まれた彼は、2005年11月11日にアメリカのカリフォルニアで亡くなりました。
2025年はドラッカーの没後20年という節目の年であり、彼の思想と業績を再評価する動きが高まっています。
2024年12月には岩波新書から『ピーター・ドラッカー ――「マネジメントの父」の実像』(井坂康志 著/岩波書店 刊)が刊行され、経営論の背後にある彼の実像が明らかにされました。また、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2025年12月号では「P. F. ドラッカー 「真摯さ」とは何か」と題した特集が組まれ、ドラッカー自身が何度も言及していた、「真摯さ」(インテグリティ)の重要性に光を当てています。
この機会に、改めてドラッカーの著作を読まれてはいかがでしょうか。
TOPPOINTライブラリーでも、『現代の経営[上・下]』や『マネジメント【エッセンシャル版】』、『イノベーションと企業家精神【エッセンシャル版】』(いずれもダイヤモンド社 刊)など、ドラッカーの著作を数多くご紹介しています。
その中で今週、私がPick Upするのは、成果をあげるために知識労働者が取るべき行動について明らかにした名著であり、ドラッカー経営書の3大古典の1つといわれる『ドラッカー名著集1 経営者の条件』(ダイヤモンド社 刊)です。
万人のための“帝王学”
『経営者の条件』の原題は、“The Effective Executive”。翻訳者の上田惇生氏は、このExecutiveを本文中で「経営者」と訳すのではなく、そのまま「エグゼクティブ」と表記しました。そこには、この本を多くのビジネスパーソン ―― 経営者だけでなくすべての知識労働者 ―― に読んでほしいという意図があります。
「訳者あとがき」で、上田氏はこう述べています。
本書は、普通の働く人たちのための本である。経営者のためだけの本ではない。現にこの本の中で、上司に命じられたこと以上の仕事をする人はすべてエグゼクティブであるといっている。そのため本書では、executiveは経営者ではなくエグゼクティブと訳した。
(『経営者の条件』 230ページ)
実をいうと、私は本書を初めて読んだ時、頻出する「エグゼクティブ」という言葉にひっかかったのですが、もし「経営者」や「経営幹部」などと訳されていれば、内容に少し距離を感じたのではないかと思います。氏が「万人のための“帝王学”」と語っているように、本書は若手からマネジメント層に至るまで、幅広い層に読まれるべき1冊です。
成果をあげることがエグゼクティブの仕事
『経営者の条件』の内容を一言でいえば、「自己マネジメントの指南書」です。
ドラッカーは「まえがき」で、こう述べています。
本書は、成果をあげるために自らをマネジメントする方法について書いた。ほかの人間をマネジメントできるなどということは証明されていない。しかし、自らをマネジメントすることは常に可能である。
(『経営者の条件』 ⅲページ)
そして、成果をあげる能力は特別な才能ではなく、習得可能なスキルであると説きます。これには勇気を与えられました。
ドラッカーは、成果をあげることがエグゼクティブ(知識労働者)の仕事である、と強調します。その一方で、「肉体労働者」に求められるのは「能率」だといいます。
肉体労働者は能率をあげればよい。なすべきことを判断してそれをなす能力ではなく、決められたことを正しく行う能力があればよい。
(『経営者の条件』 19ページ)
知識労働者でありながら、お前は肉体労働者と同じ考えでいるのではないか?
この部分を読んだ時、ドラッカーにそう問われたような気がして、身が引き締まる思いがしました。
成果をあげる“5つの能力”とは?
では、知識労働者が成果をあげるには、どうすればよいのでしょうか。
『経営者の条件』では、成果をあげるために必要な“5つの能力”があると述べています。それは、次の通りです。
成果をあげるために身につけておくべき習慣的な能力は5つある。
- (1)何に自分の時間がとられているかを知ることである。残されたわずかな時間を体系的に管理することである。
- (2)外の世界に対する貢献に焦点を合わせることである。仕事ではなく成果に精力を向けることである。(中略)
- (3)強みを基盤にすることである。自らの強み、上司、同僚、部下の強みの上に築くことである。(中略)
- (4)優れた仕事が際立った成果をあげる領域に力を集中することである。(中略)
- (5)成果をあげるよう意思決定を行うことである。(後略)
(『経営者の条件』43ページ)
このうち(2)について、ドラッカーは、自分が果たすべき「貢献」に焦点を合わせることが成果をあげるカギである、と述べています。そうすることで、組織全体の成果や、外の世界にも注意を向けるようになり、仕事の進め方が変わっていくというのです。
この点は、私が仕事を進める上で大いに参考となりました。
『TOPPOINT』の読者のために貢献できることは何か。
そうした視点を持って、原稿の作成やWEBサイトのコンテンツづくりなどに取り組むことで、独りよがりになってしまうのを抑え、広い視野で物事を考えることができると感じています。
そして、(4)の「成果をあげる領域に力を集中する」ことも、私が意識して取り組んでいることの1つです。
ドラッカーは、集中することの大切さについて、本書でこう説いています。
成果をあげるための秘訣を1つだけ挙げるならば、それは集中である。成果をあげる人は最も重要なことから始め、しかも一度に1つのことしかしない。
(『経営者の条件』 138ページ)
集中したいけれど、山積みの仕事の中で、どうすれば集中できるのか?
この部分を読むと、そう思わずにはいられません。ドラッカーは、集中のために必要なことを2つ挙げています。
まずは、「生産的でなくなった過去のものを捨てる」こと。そしてもう1つが、「優先順位を決める」ことです。
この優先順位の決め方について、ドラッカーはこう述べます。
優先順位の決定には、いくつか重要な原則がある。すべて分析ではなく勇気に関わるものである。第一に、過去ではなく未来を選ぶ。第二に、問題ではなく機会に焦点を合わせる。第三に、横並びではなく独自性をもつ。第四に、無難で容易なものではなく変革をもたらすものを選ぶ。
(『経営者の条件』 151ページ)
普段からこうした判断基準を持っておけば、やるべきことが重なった時も、素早く優先事項を決めることができるのではないでしょうか。
*
『経営者の条件』の原著が刊行されたのが1966年。来年で刊行から60年を迎えます。
しかし、自己マネジメントの原理原則を説いた内容は、今なおビジネス書としての鮮度は失っていないように思います。
本書をまだお読みでない方は、ぜひご一読ください。また、以前に読まれた方も、改めてページを開くことで、新たな発見があるのではないでしょうか。
(編集部・小村)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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