
毎年、明治安田生命保険が発表している「理想の上司」ランキング。今年春の新入社員を対象に実施した調査では、男性上司は多くの番組で司会を務める内村光良さん、女性上司は日本テレビアナウンサーの水卜麻美さんが1位に選ばれました。両名ともに、「親しみやすい」などのイメージで共感を集めたとのことです(恒例「理想の上司」ランキング 7年連続で1位は?/ITmediaビジネスオンライン2023年2月6日)。
人望を集めるリーダーは、組織において大きな影響力を持ちます。しかし、そのようなリーダーには、単に人気があるだけではなれません。では、本当の人望力とは何か。それを身につけるためには、どのような方法があるのでしょうか?
今回は、数々の歴史上の人物を例に挙げながら、人望力の要諦を解き明かした『「人望力」の条件 歴史人物に学ぶ「なぜ、人がついていくか」』(童門冬二/講談社)をPick Upし、周囲から信頼を集める秘訣を探っていきます。
著者の童門冬二氏は、歴史上の人物に現代的なテーマから光を当てた小説・評論などを多数執筆している作家です。著書には『小説 上杉鷹山』(学陽書房)、『名将に学ぶ人間学』(三笠書房)、『「中興の祖」の研究』(PHP研究所)などがあります。
童門氏は本書で、人望力の要諦を「人間通」「世間通」「経済通」「(人に対する)影響力」「人間力」という5つに分類して紹介しています。
例えば、1つ目の「人間通」とは次のようなものです。
人間通とは、人に通じていること、すなわち人間というものをよく知っていることである。人間に通じていればこそ、相手に応じて人を見きわめることができる。人を見きわめてこそ、どうすれば相手が動くかがわかる。上に立つ者は、ときに応じて、人を叱って指導しなければならないが、怒るのではなく、相手のために叱るには、人を見きわめることができる人間通でなければならない。ほんとうに自分のために働いてくれる人がいてこそ、人望力は生きる。
(『「人望力」の条件』 18ページ)
童門氏はこの「人間通」について、豊臣秀吉、徳川家康、加藤清正などのエピソードを挙げながら紹介しています(なお、「人使いの名人」といわれた加藤清正の話は、TOPPOINTの要約で取り上げています)。
どの話も面白く、しかも共通点があります。それは、上記のような偉人たちに何事かを言われた部下たちは、最初は困惑するものの、言われたことの真意がわかると感服・感動し、相手への信頼が増していることです。これは、秀吉や家康が、ただ部下を叱るだけでは意味がないと考えており、相手をよく知り、どう伝えれば響くのかを理解していたことを示しているといえます。
部下を指導する立場の方にとっては、彼らのように相手がどんな人間なのかを事前によく知っておくことが、人望力を高める第一歩となるのではないでしょうか。
本書では「人間通」だけでなく、他の4つの要諦についても、偉人たちのエピソードを交えながら解説しています。吉田松陰、黒田官兵衛、織田信長など大人物の話の数々をビジネスに活きる知恵としてわかりやすく、かつ面白く紹介できるのは、歴史小説を多数執筆してきた童門氏だからこそ。歴史好きの方はもちろん、あまり詳しくないという方にも、ぜひ手に取っていただきたい本です。歴史に名を残す大人物たちの言動を参考に、「偉人と自分の考え方はどう違うのか」「自分なら部下に何と言うだろう」とシミュレーションすることは、人望力を磨く上で役に立つはずです。
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現代のビジネスにおいて、人望力はますます重要な役割を果たしています。その一因として、「Z世代」(1996~2012年頃に生まれた世代)がビジネスの舞台に登場し始めたことが挙げられます。若い世代が求めるのはただ仕事をこなし、給料を受け取ることではありません。彼らの多くは成長を求めており、自分の強みを理解し、それを伸ばすのを助けてくれるリーダーの下で働くことを望んでいます。そのため、Z世代を引っ張るリーダーとしては、彼らのことを理解する「人間通」であり、またその他の要諦もうまく活用できる人望力を備える必要があるでしょう。
この春から新たに入社した部下たちとの信頼関係を築きたいとお考えの方には、まず『「人望力」の条件』が紹介する、5つの要諦を取り入れてみることをおすすめします。
(編集部・油屋)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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