今から39年前の1987年10月19日。ニューヨーク株式市場で、ダウ平均が1日で22.6%も下落した「ブラック・マンデー」が起きました。
なぜ、あれほどの大暴落が起きたのか? 世界的な金利の上昇やインフレ懸念、コンピュータによるプログラム売買など、様々な要因が指摘されています。しかし、はっきりした「原因」が特定できたわけではありません。
つまり、明確な理由がなくても、予測できない大きな事態は起きるということです。
そして2026年の今、私たちは多くの“想定外の事態”に遭遇しています。生成AIの急拡大、インフレ、中東情勢の緊迫化――。ニュースを追っていても、「この先どうなるのか」が読めない感覚が日常となりました。
世界の不確実性は、仕事にも影響を与えます。どのスキルを磨くべきか。どのプロジェクトに力を入れるべきか。どの情報を信じるべきか。こうした判断を、正解が見えない状況の中で下さなければならない場面が増えています。
そんな状況だからこそ、ビジネスパーソンに読んでほしい1冊があります。
金融アナリスト、コンサルタントとして活躍する著者が、不確実性を生み出す構造や、それへの対処法をわかりやすく説いた『「不確実性」超入門』(田渕直也 著/日経BP・日本経済新聞出版本部 刊)です。今週はこの本をPick Upします。
不確実性の源は「ランダム性」と「フィードバック」
著者は、不確実性には大きく2つの源があると述べています。
1つは「ランダム性」です。
ランダムとは、偶然によって出来事の経過や結果が左右されることをいいます。例えば、サイコロを振る前に、どの目が出るかを正確に知ることはできません。事前にわかるのは、「どの目も出る可能性がある」ということだけです。
ビジネスの世界でも、偶然の要素は常に存在します。たまたま出会った人が自分のキャリアを変えたり、壁にぶつかっていたプロジェクトがちょっとしたきっかけでブレークスルーを起こしたりした経験を持つ人は多いのではないでしょうか。
もう1つは「フィードバック」です。
これは、あるプロセスから生まれたアウトプット(結果)を、そのプロセスのインプット(原因)として戻すことで、さらに大きな結果を生み出す仕組みです。著者によれば先述のブラック・マンデーは、このフィードバックが典型的に現れた例だといいます。すなわち「売りが売りを呼び」、大暴落へと至ったのです。
現実の世界では、こうしたフィードバックがランダム性と絡み合って、非常に複雑な事象を生み出していると著者は述べています。
不確実性に向き合う方法:蓋然的思考
では、不確実性とどう向き合えばよいのでしょうか。
その方法の1つとして、本書では「蓋然的思考」という考え方を紹介しています。世界有数の金融機関ゴールドマン・サックスの元トップであるロバート・ルービンが提唱するもので、それは次のような考え方のことです。
ルービンの「蓋然的思考」とはまさに、モノゴトを断定的に捉えず、確率的に対処していくという考え方だ。(中略)たとえば、「Aという望ましい結果になる確率が80%あり、そのときの利益は100万ドル、しかし、その一方でBという望ましくない結果になる確率が20%あり、そのときの損失は300万ドル」というように、期待値とリスクの大きさを比較して、その上で意思決定をしていくのである。
(『「不確実性」超入門』 88~89ページ)
上記の場合、最大300万ドルの損失が生じる可能性がありますが、期待値はプラス20万ドル(=+100万ドル×80%-300万ドル×20%)となります。そのため、300万ドルの損失に対する備えができていれば取り組む価値があるとみなせる、と著者はいいます。
もちろん、望ましくない結果が出ることもあります。しかし、正しい見積もりをもとに判断を積み重ねれば、長期的には成功の可能性が高まると著者は説きます。
蓋然的思考は投資だけでなく、キャリア選択やプロジェクトの判断にも応用できます。確率が何%かを弾き出すことは難しいかもしれませんが、「どの選択肢が最も期待値が高いか」といったん考えることで、冷静に判断を下せるのではないでしょうか。
*
今から1年後、国際情勢や日本社会はどう変化しているのか。それすらはっきりとわからない、予測不能な時代となりました。だからこそ、不確実性と上手に付き合うための思考法を身につけておきたい。『「不確実性」超入門』は、その助けとなる1冊です。
なお「TOPPOINTライブラリー」の「おすすめの特集」では、本書をはじめ、不確実性の高い時代により良い意思決定を行うための参考となる書籍を集めた「不確実な時代を生きる ~リスクの本質と意思決定の勘所」を公開しています。本書に興味を持たれた方は、こちらもお読みいただければ幸いです。
(編集部・小村)
* * *
「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。