
今、円安や物価上昇が日本の家計に大きなダメージを与えています。
10年前には1ドル80円程度だったのが、いまや1ドル145円台(『2022年9月30日の為替相場』/三菱UFJリサーチ&コンサルティング)。急激に進んだ円安や原材料高などにより、今年10月に値上げされる食品は6700品目にのぼります(『「食品主要105社」価格改定動向調査(10月)』/帝国データバンク)。
インフレーション(インフレ)が進む中、対策の1つとして「投資」に目を向ける方も少なくないかと思います。そこで今回は、投資の知恵を記した名著、『マネーの公理 スイスの銀行家に学ぶ儲けのルール』(マックス・ギュンター/日経BP社)をご紹介します。
スイスといえば、アルプス山脈に代表される豊かな自然、永世中立国などが連想されます。あるいは、“銀行家の国”というイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか。本書の著者マックス・ギュンターも、スイス人は世界で最も賢い投資家として繁栄を手に入れた、と述べています。
そんなスイスの銀行界や投機筋の仲間うちで、暗黙の了解事項として培われた投機のルール ―― それが、本書で紹介されている「チューリッヒの公理」です。
「チューリッヒの公理」は12の公理から成り立っていますが、ここでは個人的に印象に残っている3つの公理をご紹介します。
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第二の公理:強欲について
本書のいう「強欲」とは、次のことを指しています。
強欲とは、過剰な欲望、常にもっと多く欲しがることを意味している。自分が当初望み、期待することが許された以上に望むことを意味している。それは、自分の欲望のコントロールを失うことを意味している。
(『マネーの公理』 48ページ)
そして、強欲にとらわれると、(たとえ一時は利益を得たとしても)お金は消えることになると述べ、次のようにアドバイスを贈ります。
常に少額を賭け、素早く降りる。強欲に支配されてはいけない。適当な利益が出たら、現金に換えて、立ち去るのだ。(『マネーの公理』 52ページ)
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第三の公理:希望について
投資は成功することもあれば、当然、失敗することもあります。本書では、投資家が失敗し、資産の大部分を失う原因について、次のように説明します。
多くの投資家がほかのどんな失敗よりも多大なコストをこうむるのは、おそらく、沈没しつつある船から飛び降りることができなかったときだろう。
(『マネーの公理』 73ページ)
例えば、1株1万円で購入した銘柄がすぐに損を出し始め、8,500円に下落したとします。本書に従えば、このような場合、何らかの改善が見られるという確かな証拠がない限り、その銘柄は手放す必要があります。小さな損失を出すことによって、自らを大きな損失から守ることが大切なのです。
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第四の公理:予測について
株を買う前、もしくは買った後は、その株がどんな値動きをするかが気になって、本や雑誌を見たり、インターネットで検索したりするものです。また、専門家や学者の分析、「〇〇株は上がる(下がる)」といった意見に一喜一憂する人も少なくないでしょう。
しかし実際のところ、将来何が起こるかなんて、誰にもわかりません。そのため、本書は次のようにアドバイスします。
あなたが投機家として成功したいのであれば、人の予想を聞く習慣から抜け出さねばならない。エコノミストやマーケットアドバイザーなどの金融の賢人が言うことを決して真剣に受け取らないことが重要である。
(『マネーの公理』 92ページ)
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以上のように、本書には、スイス人ならではの投資の原理原則がわかりやすく綴られています。投資家の方はもちろん、これから資産形成に挑戦される方にも、投資に対する判断力をつけるための指南書として、熟読されることをおすすめします。
(編集部・油屋)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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