2025.10.6

編集部:西田

ドーパミンは善か悪か? 私たちの脳内で働く様々な化学物質との上手な付き合い方

ドーパミンは善か悪か? 私たちの脳内で働く様々な化学物質との上手な付き合い方

ドーパミンは善か悪か?

 『TOPPOINT』の2025年10月号では、「一読の価値ある」ビジネス書の1冊として『起業中毒 起業家の「加速する脳」を突き動かす刺激的かつ破壊的な衝動』(ニール・シーマン 著/東洋経済新報社 刊)をご紹介しました。
 起業家はうつ病などのメンタルヘルスの問題を抱えやすい、と指摘し、その原因は脳内化学物質の「ドーパミン」にある、と説いた本です。

 この本を読んで、ドーパミンは恐ろしいものだという印象を抱いた方もいるかもしれません。
 今週は、そんな方に次に読んでいただきたい1冊をPick Upします。
 それが、『最適脳 6つの脳内物質で人生を変える』(デヴィッド・JP・フィリップス 著/新潮社 刊)。2024年下半期「TOPPOINT大賞」のランキングでは7位に入るなど、多くのTOPPOINT読者に支持された1冊です。

 本書におけるドーパミンの位置付けは、はっきりしています。
 「ドーパミンを理解することで人生は大きく変わる」
 本書はそう説き、ドーパミンはモチベーションや勢い、何かを手に入れたいという欲求を生み、長期記憶にも重要な役割を果たすとしています。

 『最適脳』『起業中毒』、両者のドーパミンに対する考え方は、一見大きく異なっているように思えます。では、どちらかが間違っているということでしょうか?
 そうではありません。同じドーパミンでも、指しているものが違うのです。
 『最適脳』は、「ドーパミンには2種類ある」と説いています。

 

名づけてクイック・ドーパミンとスロー・ドーパミン、短い効果しかないドーパミンと効果が長く続くドーパミンだ。実際にはそんな名前のドーパミンはないが、わかりやすくたとえるとそうなる。クイック・カロリーとスロー・カロリー[ゆっくり消化吸収される健康的な糖質]のような感じだ。白いパン、パスタや砂糖など吸収の速い炭水化物は素早くエネルギーをトップまで持っていけるが、あっという間にクラッシュしてしまう。(中略)一方、スロー・カロリーは全粒粉のパンや玄米、レンズ豆、雑穀から得られ、エネルギーが長く持続する。

(『最適脳』 35ページ)

 

 例えば本書によると、インスタグラムの動画はクイック・ドーパミンを放出させるといいます。その瞬間だけは楽しませてくれるが、そうした動画を何本も見続けると、後には虚しさだけが残る、と。
 一方、スロー・ドーパミンを放出させてくれるのは、その瞬間だけでなく将来的にも役に立つような活動や体験だといいます。例えば、小説を読む、何かを学ぶ、人と過ごす…。こうした活動は、生きる原動力を得て、人生を満喫することにつながります。

 ただ、これらの例からわかるように、スロー・ドーパミンを放出させる行動には時間がかかります。そして、「タイパ」などという言葉が流行るように、今日の世界ではスロー・ドーパミンは押しのけられ、クイック・ドーパミンが溢れています。

 『起業中毒』が取り上げる起業家は、そうした環境での犠牲者といえるでしょう。
 常に時間に追われ、迅速な決断を下すことが求められる。短期間で成果を挙げることを期待され、成功すると周囲はさらなる成功を期待する…。そうした状況を乗り切る上では、クイック・ドーパミンの即効性に頼ることも必要でしょう。ですがその結果、クイック・ドーパミンが切れた時に苦しむことになります。
 こうした意味で、『起業中毒』は、クイック・ドーパミンに頼ることの危険性に焦点を当てた本といえるのではないでしょうか。

 

クイック・ドーパミンへの対処法

 こうした危険な面のあるクイック・ドーパミンについて、『最適脳』では対処法を覚えた上で活用することを説いています。
 例えば、「1日をスマホで始めない」。スロー・ドーパミンへの「空腹感」が失せてしまうから、というのがその理由です。ある研究によると、寝ている状態から急に大量の情報をスマホから受け取ると、そのギャップで集中力や優先順位をつける能力に悪影響が及ぶのだそうです。
 スマホの目覚まし機能などを使っていると、朝起きて最初に手に取るのがスマホ、などとなりがちですが、そこからついSNSを見てしまう、という人は注意した方がいいかもしれません。

 『最適脳』では、ドーパミン以外にも、満足感を得るための「セロトニン」や集中力を保つための「コルチゾール」など、計6つの脳内物質を取り上げてその効果を解説しています。
 本書によれば、この6つの脳内物質には、次のような共通点があるといいます。

 

効果をすぐに感じられること、望んだ時に自分でつくれること、それも簡単で実際的な方法によってつくれることの3点だ。

(『最適脳』 25ページ)

 

 起業家を苦しめる脳内物質も、使い方1つでよい結果につなげられる。プラスの面もマイナスの面も知った上で活用できれば、これらの脳内物質は私たちの人生をより良いものに変える手助けをしてくれるでしょう。
 『最適脳』は、そのヒントを示してくれる本として、一読をおすすめします。

(編集部・西田)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2024年7月号掲載

最適脳 6つの脳内物質で人生を変える

気分が落ち込む、ストレスを常に感じる…。そんな状況からどうすれば抜け出せるのか? 現代人が陥りがちな悩みに、長年鬱に苦しんだコミュニケーションの専門家が解決のヒントを示した。精神状態に大きな影響を与える6つの脳内物質の働きを平易に解説。それらのバランスを整え、自分の人生を変えるための方法を伝授する。

著 者:デヴィッド・JP・フィリップス 出版社:新潮社(新潮新書) 発行日:2024年4月
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