2025年10月号掲載
起業中毒 起業家の「加速する脳」を突き動かす刺激的かつ破壊的な衝動
Original Title :ACCELERATED MINDS:Unlocking the Fascinating, Inspiring, and Often Destructive Impulses that Drive the Entrepreneurial Brain (2023年刊)
著者紹介
概要
研究によると、起業家はメンタルヘルスの問題を抱えやすい。うつ病を抱え、薬物を乱用し、果ては自殺に至る…。なぜか? 起業家でもあるメンタルヘルス研究者が、自らの経験と脳科学の見地から考察した。問題をもたらしているのは「ドーパミン」だと指摘し、この脳内化学物質に翻弄される起業家の実態を、事例を交え語る。
要約
起業家精神の危機
アーロン・スワーツは、2013年1月に首を吊って自殺した。26歳だった。
彼は14歳の時に、オンラインで発表されたコンテンツの配信と購読を簡単に行えるようにする規格RSSを共同開発した。2005年、スタンフォード大学在学中には、後にソーシャルニュース・アグリゲーション・プラットフォームのレディットと合併するインフォガミを立ち上げた。
レディットは、インターネットでの交流の新たな可能性を開いた。誰もが、いつでもどんな話題でも意見交換ができるようになったのだ。
スワーツは、世界中の多岐にわたる重要なトピックに新たな知識と洞察を次々と提供する、コンピューターの技術革新の基礎を築いた。そんな優秀な若者が、自らの命を絶ったのである。
「クール」な若者の内面
起業家の自殺は他の場所でも起きている。
ハンガリーの農業関連ビジネスの起業家ペーテル・クレサンは、2022年7月に47歳で自殺した。ニュージーランドの起業家ジェイク・ミラーは、2021年、26歳の時に自宅で首を吊って自殺した。インドでは、起業家の自殺率がただならぬほど高い。1時間に1人が自殺するといわれるほどだ。
なぜ、多くの起業家が希死念慮に屈するのか?
精神科医で起業家のマイケル・フリーマン博士が2015年にまとめた研究では、起業家の72%がメンタルヘルス上の懸念を訴え、49%が「長年1つまたは複数のメンタルヘルスの疾患」の既往歴があった。一方、起業家ではない人々からなる比較群でこうした既往歴があるのは32%だった。
起業家の30%が、うつ病の既往歴があると回答し(比較群の2倍)、12%が薬物の乱用歴があると回答した(比較群の3倍)。また、起業家は比較群と比べて、自殺未遂や精神科へ入院した経験が2倍となっている。
つまり、起業家はメンタルヘルスの問題を抱えやすい。そして、こうした問題で重要な働きをするのが、脳内化学物質の「ドーパミン」である。