今月1日に、「TOPPOINTライブラリー」の各ジャンルにおける必読の名著10冊を選定した、「『TOPPOINT』編集部が選ぶ ジャンル別オールタイムベスト10」の更新を行いました。
今回新たに追加したのは、『影響力の武器 [新版] ――人を動かす七つの原理』(誠信書房 刊)です。これは、米国を代表する社会心理学者、ロバート・B・チャルディーニ氏が1984年に著した名著の新版で、心の動きに影響を及ぼす「6つの原理」(返報性、好意、社会的証明、権威、希少性、コミットメントと一貫性)に、新たに「一体性」という原理を追加したものです。
今週のPick Up本では、この本が説く原理に基づいて、人々を説得する具体的なテクニックを公開した、『影響力の武器実践編[第二版] 「イエス!」を引き出す60の秘訣』(R・B・チャルディーニ 他著/誠信書房 刊)を取り上げたいと思います。
『影響力の武器 [新版]』と本書『影響力の武器実践編[第二版]』は、心理学やマーケティングに関心をお持ちの方には特にお薦めしたい書です。両方をあわせて読むことで、人の心を動かす方法がより深く理解できるでしょう。
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まずは、次の問題について考えてみてください。
アメリカの台所用品専門店のウィリアムズ・ソノマが、それまで最もよく売れていたパン焼き器よりはるかに高性能の新機種を売り出しました。ところが、この新製品の投入後に、従来品のほうの売り上げがほぼ倍増するという現象が起きたのです。
(『影響力の武器実践編[第二版]』32ページ)
通常であれば新機種が売れて、従来品の売上は下がるように思えます。なぜ、従来品の売上は大きく伸びたのでしょうか?
ある研究者によれば、従来機種が売れたのは、消費者には「妥協の選択」 ―― 複数の選択肢を検討する場合、最小限必要なものと最大限手に入れたいものの中間を選ぶ傾向があるからだそうです。
買い手は「2つのうちから1つだけ選べ」と迫られると、安いほうを選んで妥協することがよくあります。しかし、これら2つより高価な第3の選択肢が加わると、妥協するポイントが低価格商品から中間価格商品へとシフトします。
ウィリアムズ・ソノマのパン焼き器の場合は、一段と高価な製品の登場により、前からある製品を選ぶほうが賢明で経済的な選択になったわけです。(『影響力の武器実践編[第二版]』33ページ)
この例を読んだ時、私は過去に全く同じ判断をしていたことを思い出しました。それは、炊飯器を買い替えるために家電量販店に行った時、10万円以上する高級炊飯器を見て、「ここまでの機能はいらないよな」と、ワンランク下の商品を買ったことです。
しかも炊飯器を購入する前に価格比較サイトで確認したところ、私が選んだ商品は売上ランキングの上位にランクインしていました。もしかするとその時期、私と似たような判断をされた方が多かったということかもしれません。
さて、ここで売り手側が注意しなければならないのは、一番高い商品(先の例の場合、高性能の新機種)が予想よりも売れないからと、早々に撤退してしまうことです。もしも別の高級商品を導入せずにただ撤退してしまうと、売上が上がった中位機種が最上位となるため、こちらの売上も落ちる恐れがあります。商品の導入・撤退を考える際には、売上では測れない、「人の心」への影響も考慮にいれる必要性があると考えさせられる事例です。
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最近、多くの企業が取り入れている「企業の社会的責任(CSR)」。『影響力の武器実践編[第二版]』によれば、地域活動や寄付活動といったCSRの取り組みは、企業の評判や従業員の意欲を高めるだけでなく、消費者がその企業の製品をどう評価するかという点にも影響を与える可能性があるといいます。
そしてその例として、ノースウエスタン大学が行った次の研究結果を紹介しています。
その研究では、消費者があるブドウ園に招かれ、そこで作られたワインへの評価を求められました。実験参加者たちは、(中略)赤ワインのサンプルと一緒に、製造元のワイナリーを紹介するカードも渡されました。カードにはブドウの特色と収穫技術に関する情報が書かれていました。その一方で、参加者の半数には、カードに加えて、ワイナリーが行っている立派な社会貢献に関する情報も伝えられました。こう言われたのです。
「このワイナリーは売上利益の10%をアメリカ心臓協会に寄付しています」。
カードを読み、ワインを試飲した後、参加者全員が1点から9点の間でワインの味を評価するよう言われました。また、ワインに関する知識についても尋ねられました。
結果はかなり印象的なものになりました。ワイナリーが寄付を行っていると知らされていた参加者の多くが、知らされていなかった参加者よりも、ワインの味を高く評価したのです。(『影響力の武器実践編[第二版]』69~70ページ)
この例の場合、寄付活動がワインの味の評価に大きく影響を与えていたということです。
ただこの研究が興味深いのは、参加者全員が影響を受けたわけではないという点です。
ただし、(中略)あるタイプの参加者は、追加情報から全く影響を受けませんでした。それは、ワイン“通”を自認する人たちです。この人たちは、追加情報を与えられていなかったグループの“通”を自認する人たちと同じ評価しかワインに与えていなかったのです。
(『影響力の武器実践編[第二版]』70ページ)
この例からわかること。それは、CSRのような企業の善行は、自社の製品やサービスに詳しくない消費者、はっきりした好みがない消費者に対して大きな影響を与えるということです。従って、直接あるいは第三者を通じて、企業の慈善活動を消費者に広く伝えることが効果的でしょう。一方、すでに自社製品・サービスに詳しい人に影響を与えるには、CSRなどの活動とは別に、製品やサービスの品質を素直に伝える方が、より効果が出やすくなる可能性が高いと考えられます。
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『影響力の武器実践編[第二版]』では、今回ご紹介した2例を含む、60の秘訣がわかりやすく紹介されています。先述のように、本書は『影響力の武器 [新版]』とあわせて読むことで、人々に働きかけ、望ましい行動を引き出す方法がより深く理解できるかと思います。まだお読みでない方には、ぜひ一度手に取っていただきたい良書です。
(編集部・油屋)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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