“出世競争”という言葉があります。いや、あった、と言えるかもしれません。
今や日本において、出世競争に勝ち抜いて管理職に昇進することは、ビジネスパーソンにとって憧れではなくなりつつあります。競争の勝者であるはずの管理職の立場が、「罰ゲーム」にたとえられる現状があるからです。
『日経ビジネス』2025年3月10日号の特集「続・管理職罰ゲーム」では、管理職になりたくないという一般社員の比率が、2018年の72.8%から5年間で4.5ポイント増加し、77.3%になったことを紹介しています(日本能率協会マネジメントセンター調べ)。
もはや出世レースのスタートラインにすら立ちたくない、という若手ビジネスパーソンの心の声が聞こえてくるようです。
なぜ、管理職はこのように敬遠されるようになったのでしょうか。そして、この状況を打開するすべはないのでしょうか。
今週は、こうした疑問に答えてくれる1冊、『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』(小林祐児 著/集英社インターナショナル 刊)をご紹介します。
管理職に重くのしかかる「部下とのコミュニケーション」
管理職が「罰ゲーム」といわれる背景には何があるのでしょうか。本書では、業務量の増加や管理職の人数の減少、賃金の減少などを挙げています。
また、中間管理職2000人への調査から、管理職が特に負担を感じる業務を明らかにしています。それは、「部下とのコミュニケーション」です。
「負担感」全体の結果を見ると、「組織内のトラブルや障害を解決する」「部下との定期的な面談を行い、フィードバックを行う」「部下のモチベーションを維持・向上させるコミュニケーションを実行する」の3つが同率1位で、最も負担感が高かったことがわかります。
(『罰ゲーム化する管理職』 29ページ)
3月31日公開の「今週のPick Up本」では、若手社員の育成の難しさを説いた『なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか 〝ゆるい職場〟時代の人材育成の科学』(古屋星斗 著/日経BP・日本経済新聞出版 刊)をご紹介しましたが、このことを裏付けるように、管理職側は部下への対応に大きな負担を感じているようです。
管理職負荷の「インフレ構造」
管理職が「罰ゲーム」といえるのは、彼らが抱える負担が減ることなく、増幅し続けるからです。本書はその「インフレ構造」について解説しています。
この構造は、3つのフィードバック・ループから成っています。
1つ目は「人事の個別対処ループ」。これは組織で発生した問題を、人事が個々の管理職に押し付けることです。そのため、コンプライアンスや働き方改革といった近年話題となっている問題への対応は、管理職個人の手腕にゆだねられることになります。
さらに会社は「管理職に変わってもらおう」として、彼らに個別スキル開発中心の訓練を行います。
2つ目は「現場のマネジメント・ループ」。多忙な管理職は、部下を思い通りに動かそうとしてマイクロ・マネジメントを強めていきます。それにより、部下が「指示待ち」や「批判的な行動」をとるようになり、結局は管理職の負担が増大していきます。
3つ目は「管理職人材不足ループ」。業務量が増え、部下の育成に手が回らなくなった管理職は、自分でやるしかない状況に陥ります。その大変な仕事ぶりを見た部下は、「管理職にはなりたくない」という思いを強めることになります。
この3つのループがまるで永久機関のようにずっと回り続け、次々とバグ(課題)を生み出し、現場の管理職の負荷が上がり続けているのが、バブル崩壊後の日本企業です。
(『罰ゲーム化する管理職』 95ページ)
細かく指示を出して仕事をさせようとすれば反発され、自分で仕事を抱え込めば「ああはなりたくない」と思われる。さらに部下との間に問題が起きた時には、人事から「お前が何とかしろ」と責任を押し付けられる ―― 。
「罰ゲーム」にたとえられる今の管理職は、こうした深刻な状況に陥っていることを本書は教えてくれます。実際に管理職の立場にある方々は、こうしたループに陥っていないでしょうか。
管理職問題の修正法
こうした問題を修正する方法はあるのでしょうか。本書では、その修正法をいくつか紹介していますが、その1つに、「フォロワーシップ・アプローチ」があります。
「フォロワーシップ・アプローチ」とは、管理職の部下、つまりフォロワーである「メンバー層」へのトレーニングを増やす、というアプローチです。
(『罰ゲーム化する管理職』 159ページ)
このアプローチを、著者は「脱・リーダーシップ偏重」といいます。というのも今、企業は管理職に組織問題を解決するための様々な研修を受けさせることが多いですが、上司と部下という人間関係においては、上司のスキルだけを向上させても問題は解決しないからです。
その状態をたとえて、「野球の素人と大谷翔平がキャッチボールする」ようなものだ、と著者は述べます。片方だけがいくら野球の訓練を受けても、相手がうまくボールをとれるようにはならないのです。
このアプローチのポイントは、次の点にあります。
「フォロワーシップ・アプローチ」のポイントは、「知っていることを・知っている」という知識へのメタ知識の共有です。つまり、管理職とメンバー層に同様の内容を教えるというだけではなく、「教えているということを、教える」ことが重要になります。(中略)例えば、対話型マネジメント研修ならば、管理職側には「メンバー層にもこの自己開示のポイントは伝えておきます」と伝え、メンバー層には「管理職には、こうしたやり方で対話を行うように伝えています」と伝える。
(『罰ゲーム化する管理職』 172~173ページ)
こうすることで次回、管理職と部下が向き合った時、同じ知識を共有しているという前提で対話することができるといいます。
もし、あなたが人事担当者であれば、「部下が自分のいうことを聞いてくれない」と嘆く管理職には、こうしたアプローチをすすめてみてはいかがでしょうか。
*
この4月から、昇進して管理職となった人もいることでしょう。実際に管理職になってみて、「こんなに大変なのか」と思いながら業務を行っているかもしれません。そんな人たちや、以前から管理職で頑張っている人たちには、ぜひ本書『罰ゲーム化する管理職』をお読みいただきたいと思います。管理職の疲弊する現場の全体像を知ることができるとともに、抱えている問題の解決策についても示唆を得ることができるでしょう。また人事担当者や経営層にとっても、本書は参考となるでしょう。
(編集部・小村)
* * *
「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
このPick Up本を読んだ方は、
他にこんな記事にも興味を持たれています。
-
運が「良い人」「悪い人」その違いはどこにある? 米国人ジャーナリストが運が良くなる方法を明かす
-
ロングセラーが教える 新しいアイデアを生み出す方法とは?
-
「本が売れない」時代になぜ「本を読む」のか? 田坂広志氏に学ぶ「教養」の本質