2022.8.8

編集部:西田

終戦直後に日本の敗因を喝破 いまも読み継がれる、敗戦の“真相”

終戦直後に日本の敗因を喝破 いまも読み継がれる、敗戦の“真相”

 今年も、終戦の日が近づいてきました。
 2022年は、戦後77年の年。77年というのは、明治維新から先の大戦が終焉するまでの期間と同じ長さです。
 それだけの時が流れる中で、大戦の記録と記憶をいかに風化させず、後世に伝えていくか。これは、社会全体で考えていく必要のある課題です。
 そこで今週は、先の大戦がなぜ起こったか、どうして日本が敗れたのかを、終戦間もない時期に分析した『敗戦真相記』(永野 護/バジリコ)をご紹介します。
 『敗戦真相記』が刊行されたのは、1946年の元日(本書のもとになった講演が行われたのは、終戦からわずか1カ月後の1945年9月)。56年後の2002年に復刻出版され、いまも読み継がれている名著です。語られる敗因は低迷する企業・組織にも当てはまるとされ、ビジネス書としての評価も高い本です。

 本書は、次のような書き出しで始まります。

 

日本は敗けました。しかも完全に敗けたのであります。しかし、静かに反省してみると、みんなの胸の中に何だかまだ割り切れない、もやもやとした感情が残っておりはしないか。すなわち、はっきり敗けたとは理屈の上では考えながら、どうも本当に敗けたという気持になれない。いわゆる、勝負には負けたが、角力(すもう)には勝っていたのではないか。だから、もう一遍、角力を取れば相手を投げ付けることができるのではないかという気持が起こっていやしないかと思います。

(『敗戦真相記』 8ページ)


 「完全に敗けた」にもかかわらず、もう一度戦えば勝てると思っている…。敗戦直後の日本にただよう“空気”を、永野氏はそのように捉えています。そしてこの空気に対する危機感こそが、永野氏をこの講演に駆り立てたものでした。

 ここで想起されるのが、“失敗学”の権威、畑村洋太郎氏が著書『起業と倒産の失敗学』(文藝春秋)で述べている、次の言葉です。

 

一般に「失敗は隠れたがる」という特徴をもっている。
(中略)森や木の中に失敗が姿を見せていても、当人が「そういうものは見たくない」と思っている以上は森や木しか見えない。失敗の原因は見えないのである。
(中略)だから、失敗を防ぐためには、失敗がそういう性質をもっていることをよく知って、あえて「見たくないものを探す」という心構えでものごとを考えることが必要なのである。

(『起業と倒産の失敗学』 246ページ)


 ここには、永野氏の問題意識に通ずるところがあるのではないでしょうか。
 敗戦を受け入れることができなければ、同じような惨禍を再び繰り返すかもしれない。たとえ「見たくない」現実でも、正面から受け止めて、何が良くなかったのか、どこに問題があったのかを探らなければならない。
 永野氏が『敗戦真相記』で語る精緻な分析からは、そうした信念が見て取れます。当時の情勢や敗戦の原因を詳細に、かつ冷静に説いていく本書は、終戦の日を前に、戦争について改めて考えるきっかけを与えてくれる1冊です。

(編集部・西田)

*  *  *

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2022年4月号掲載

敗戦真相記

なぜ第2次世界大戦は起こったのか。日本が敗れた理由は? 戦中、戦後の政財界で活躍した著者がその真相を語る。マネジメント能力の欠如、官僚の無能さ、陸海軍の縄張り意識…。指摘される敗因は、今の日本が国力を衰えさせている原因にも通じる。終戦直後の1945年9月、広島で行われた講演をもとに刊行された書である。

著 者:永野 護 出版社:バジリコ 発行日:2012年8月
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