明日、12月10日は、ノーベル賞で知られるスウェーデンの発明家、アルフレッド・ノーベルの命日です。当日はノーベル賞の授賞式が行われる日でもあり、今年は日本の原水爆被害者団体協議会が平和賞に選ばれたことで注目されています。
今週は、そのノーベル賞にまつわる本、『THE POWER OF REGRET 振り返るからこそ、前に進める』(ダニエル・ピンク 著/かんき出版 刊)をPick Upしたいと思います。
「死の商人、死す」(死んでいない)
ノーベルは、若くしてダイナマイトを発明し、巨万の富を築きました。一方で、ダイナマイトは兵器としても使用され、戦争で多くの人々の命を奪うことにもつながりました。
そのことに心を痛めたノーベルは、遺言で「人類に対して最も大きな貢献をもたらした人たち」に賞を授与すると表明します。こうして生まれたのが、ノーベル賞でした。
そんなノーベル賞のエピソードが、本書『THE POWER OF REGRET』で紹介されていると書くと、ノーベルがダイナマイトの発明を「後悔」(regret)していたのだろうと想像されるかもしれません。ですが、そこには少し珍しい事情があったようです。
本書は、そのエピソードについてこう描いています。
1888年のある朝、アルフレッド・ノーベルは新聞を見て驚いた。そこには、自分の死亡記事が載っていた。死去したのは兄のルドヴィグだったが、あるフランスの新聞記者が兄と弟を取り違えて記事を書いたのだ。(中略)
しかし、ノーベルが最も心を痛めたのは、自分が死んだものと思われたことではなく、その死亡記事の見出しの言葉だった。伝えられているところによると、そこにはこう記されていたという――「死の商人、死す」。(『THE POWER OF REGRET』 278ページ)
この記事でノーベルは、人々が殺しあうための道具を売って巨万の富を蓄えた、強欲で非道徳的な人物として描かれていたようです。
「死の商人、死す」。もし自分がそんな風に書かれたら、と想像してみると、震えが走る見出しです。目にしたノーベルのショックは、想像して余りあります。
これは、ノーベルが実際に亡くなる8年前の出来事でした。それから8年後、ノーベルが実際に亡くなった際の遺言と、後世の評価はご存じの通りです。
生前と死後で、世間の評価に違いをもたらしたのは、確かにノーベルの「後悔」でした。ですがその後悔は、過去への後悔というよりも、未来に自分が抱くであろう後悔(「今のまま自分が死んでしまったら、こんな新聞記事が書かれるだろう」)でした。いわば、ノーベルは後悔を「先取り」したわけです。
自分の葬式に出ることを想像する
ノーベルのような衝撃的な「未来の後悔」を経験することは、普通の人にはなかなか難しいかもしれません。ですが、何かで悩んだ時、「どうすれば、自分が死んだ時に後悔していないだろうか」と考えることは、誰にでも可能です。
心理学者のリチャード・カールソンは、こうした発想を「自分の葬式に出ることを想像する」と呼び、人生で最も大切なものを肝に銘じる上で効果的な方法だとしています。
葬儀の場で、自分はどんな人たちに囲まれて、どう語られているのか。それを想像することで、自分が大切にすべきことは何か、取るに足らないことに気を取られ過ぎていないか、といったことが見えてくるかもしれません。
そしてこのテクニックは、自分の葬式にしか使えないものでもないでしょう。(不謹慎ですが)親や子ども、配偶者など、自分にとって大切な人の葬式に出ることになったら…。普段、些細なことでケンカをしてしまうような相手でも、時にはそんな風に想像してみると、向き合い方も変わってくるのではないでしょうか。
「親孝行、したい時分に親は無し」といった諺がありますが、人間関係は、親しく深いつながりほど、失われてから大切さに気づくもの。「後悔の先取り」を試してみることで、折に触れてその大切さを再確認してみてはいかがでしょうか。
セルフ・コンパッション
ノーベルの事例は「後悔の先取り」というやや特殊なものですが、『THE POWER OF REGRET』ではもちろん、過去に実際に経験したことへの後悔も取り上げています。多くの人にとって身近なのも、こちらでしょう。
そして、本書の副題にあるように“振り返るからこそ、前に進める”と頭ではわかっていても、実際には「なぜあんなことをしてしまったのか」「別の道を取っていれば…」と、同じような思考が脳内でループしてどんどん思い詰めてしまう、という人も少なくないでしょう。
本書は、そうした人に向けて、“前に進む”ためのアドバイスも豊富です。
1つ具体例を挙げると、「セルフ・コンパッション」という考え方。これは、厳しい批判の代わりに優しい態度で自分に接することを意味します。
後悔した時に自分を厳しく責める人に対して、本書は次のようなユーモアある問いかけをしています。
あなたと同じ後悔をいだいている友人や家族がいて、その後悔を打ち明けられたとする。あなたは、その人物にやさしく接するだろうか、それとも侮辱的な態度を取るだろうか。もし友人や家族に対して親切に接するのであれば、自分に対しても同様のやさしい姿勢で臨もう。もし侮辱的な態度を取るとすれば、友人や家族への接し方を考え直したほうがいい。
(『THE POWER OF REGRET』 260~261ページ)
家族が失敗した時に、自分に対するのと同じ厳しい態度を取るだろうか――。
こう問いかけることで、自分の悩みから距離を取り、客観的に後悔と向き合うことができるのではないでしょうか。ノーベルのような「後悔の先取り」が時間的に距離を取ることだとすれば、セルフ・コンパッションは空間的に距離を取ることとも言えるかもしれません。
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2024年も残すところ1月足らず。この1年を振り返れば、後悔することも少なくなかったのではないでしょうか。
些細なものもあれば、取り返しのつかないような後悔もあるかもしれません。
それらで不必要に自分を苛むのではなく、将来への糧とする。そのためのヒントを、『THE POWER OF REGRET』は示してくれるでしょう。2024年を振り返り、2025年に進んでいくに当たり、一読してみてはいかがでしょうか。
(編集部・西田)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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