2022.9.20

編集部:小村

企業で導入の進む「ジョブ型雇用」 その原理原則がよくわかる1冊

企業で導入の進む「ジョブ型雇用」 その原理原則がよくわかる1冊

 先月、厚生労働省が企業に対し、将来の勤務地や仕事の内容などの就労条件をすべての従業員に明示するよう求める、との報道がありました(「勤務地や職務、全社員に明示 「ジョブ型」へ法改正検討」日本経済新聞電子版2022年8月31日)。その趣旨は、「ジョブ型雇用」の広がりを受けて、法改正を検討するというものです。

 ジョブ型雇用とは、“職務内容(ジョブ)に基づいて、適切な能力や知識を持った人材を雇用する制度”のこと。欧米などで主流のジョブ型は、近年、日本でも導入が進みつつあります。その背景には、働き方の変化やコロナ禍によるリモートワークの増加により、労働時間ではなく「成果」に応じた評価や報酬制度が求められている、ということがあります。

 では、このジョブ型雇用とは具体的にどういうものでしょうか。今週Pick Upする本は、その概要から導入する際のプロセスまで、全体像を解説した『経営者が知っておくべきジョブ型雇用のすべて』(白井正人/ダイヤモンド社)をご紹介します。著者の白井氏は、約30年間にわたり組織・人事領域の経営コンサルティングに従事してきたトップコンサルタントです。

 日本の従来の雇用形態は「メンバーシップ型」と言われます。著者によれば、それは“会社が雇用を保障する代わりに、社員は会社の業務指示に従って、原則、どのような業務にも従事する”働き方です。新卒で入社して様々な業務に従事し、時には転勤を経験しつつ、定年まで勤め上げる ―― これがメンバーシップ型の標準的なスタイルです。
 なお、メンバーシップ型は日本の伝統のように思われていますが、その歴史はさほど長くありません。本書によれば、本格的な普及は戦後であり、システムの完成は1970年代ということでした。

 メンバーシップ型雇用がうまく機能していた高度成長期には、それが“一種の社会保障の役割を担い、社会全体の安定に寄与していた”と、著者は述べています。その一方で、現在では、社会全体としても、各企業の雇用システムとしても、様々な「ほころび」が生じていると指摘します。例えば ――

 

  • ・高度専門人材を確保・有効活用できない

 メンバーシップ型雇用は、ジョブ型雇用に比べて報酬が相対的に低い。そのため、高度専門人材の多くはメンバーシップ型を敬遠する。

  • ・中高年のぶら下がり人材が恒常的に発生する

 雇用が保障されているから、従業員が“自らスキルアップしないとキャリア形成がうまくいかない”という危機感を持たない。その結果、パフォーマンスが低く、キャリアアップや転職も難しい中高年を恒常的に生みだしてしまう。

 

 そして今、こうしたメンバーシップ型雇用の問題点を解決するために、ジョブ型雇用に注目が集まっているのです。

 では、会社にとって、ジョブ型雇用のメリット・デメリットとは何でしょうか?
 著者が第一に挙げるメリットは、「必要な人材を確保しやすいこと」。職種別に採用や報酬などの仕組みを取り入れることで、外部市場から人材を確保できます。
 また、内部の人材がキャリア獲得のためにレベルアップを図ろうとするため、会社の戦力強化も期待できます。
 逆にデメリットとしては、「価値観の共有が困難」「チームワークや意思伝達の効率性の低下」「人件費の高騰」などが挙げられます。

 現在、多くの企業がこのジョブ型雇用への移行を検討しています。ですが、それは簡単なことではありません。企業の前には、導入を阻む「壁」が立ちはだかっています。それは、経営者が実行を決断できないこと。“自社のメンバー(役員、マネジャー、一般社員すべて)の能力やマインドセットを考えると、導入がためらわれる”――メンバーシップ型に慣れ親しんだトップマネジメント層には、そうした感覚を持つ人が少なくない、と著者は指摘しています。そして、“最悪のシナリオは、ハードルの高さにひるんで変われないことです”と警告します。

 さて、こうした壁を乗り越え、ジョブ型雇用に移行する場合、具体的に何をすればいいのでしょうか。本書では、その方法として次の3つを挙げています。いずれの方法をとるかは、会社の位置づけや事業の性質などによって変わります。

 

①一国二制度

 既存の社員はメンバーシップ型雇用とし、中途採用者や一部の選抜された社員をジョブ型雇用とする手法。

②段階的移行

 職種別の採用とする。また、異動は公募を中心とすることでキャリア意識を高めていく。その後、職種別の報酬制度を始める手法。逆に、報酬制度を優先する方法もある。

③短期全面移行

 採用、配置、教育、評価、報酬等の一連の人事機能を刷新する。


 『TOPPOINT』の要約では紹介しきれませんでしたが、本書ではこの他、ジョブ型雇用を実現するために必要とされる施策コンセプトについて、130ページにわたり詳細に紹介しています。

 今年7月、NTTデータは管理職約3000人を対象にジョブ型雇用を導入しました。また、富士通や日立製作所では、一般社員にもその対象を広げています。経団連も今年1月、春季労使交渉に臨む経営側の方針として、各企業がジョブ型の導入・活用を「検討する必要がある」と、報告書に明記しました。

 今後、日本の雇用形態はメンバーシップ型からジョブ型へと移っていくでしょう。その流れの中で企業が優秀な人材を獲得し、また優秀な社員の流出を防ぐためには、ジョブ型雇用のシステムへの十分な理解が必要です。『経営者が知っておくべきジョブ型雇用のすべて』は、そのノウハウが詰まった本として、経営者や管理職の方に読んでいただきたい一冊です。

(編集部・小村)

*  *  *

 「今週のPick Up本」では、ビジネス書に日々触れている小誌の編集部員が、これまでに要約した書籍の中から「いま改めておすすめしたい本」「再読したい名著」をご紹介します。次回の“Pick Up本”もお楽しみに。

2021年10月号掲載

経営者が知っておくべきジョブ型雇用のすべて

コロナ禍で、“ジョブ型雇用”が注目を浴びている。リモートワークが増え、労働時間ではなく成果に応じた評価・報酬制度が必要 ―― そうした問題意識が発端だ。では、ジョブ型雇用とは具体的にどのような雇用システムなのか。その概要から導入する際のプロセスまで、ジョブ型雇用の全体像を解説する。

著 者:白井正人 出版社:ダイヤモンド社 発行日:2021年7月

他のPick Up本

他のPick Up本を見る