
先月、厚生労働省が企業に対し、将来の勤務地や仕事の内容などの就労条件をすべての従業員に明示するよう求める、との報道がありました(「勤務地や職務、全社員に明示 「ジョブ型」へ法改正検討」/日本経済新聞電子版2022年8月31日)。その趣旨は、「ジョブ型雇用」の広がりを受けて、法改正を検討するというものです。
このジョブ型雇用。働く側としては雇用形態をイメージしやすいのですが、導入する組織の側に立つと、これまでの組織形態をどの程度変えればよいのか、わからないことも多くあります。ジョブ型雇用が広がりを見せる中、経営者や管理職の方々にとって、その具体的な知識を得ることは喫緊の課題ではないでしょうか。
そこで今週は、ジョブ型雇用の概要から導入する際のプロセスまで、その全体像がわかる本『経営者が知っておくべきジョブ型雇用のすべて』(白井正人/ダイヤモンド社)をPick Upします。著者の白井氏は、約30年間にわたり組織・人事領域の経営コンサルティングに従事してきたトップコンサルタントです。
まず、ジョブ型雇用とはどのような制度でしょうか。改めて本書の記述を見てみると ――
「職務内容(ジョブ)に基づいて、適切な能力や知識を持った人材」を雇用する制度のことです。(中略)会社にとっては事業計画の遂行に最適な人材を確保しやすく、個人にとってはキャリアを選択しやすくなります。
(『経営者が知っておくべきジョブ型雇用のすべて』 18ページ)
ジョブ型雇用に対して、日本の従来の雇用形態は「メンバーシップ型」と言われます。メンバーシップ型は、終身雇用や年功序列などを特徴とします。高度成長期、このような雇用形態はうまく機能していましたが、近年は様々な「綻び」が生じている、と著者は指摘します。例えば本書第2章では、次のような「綻び」を挙げています。
・高度専門人材を確保・有効活用できない
・新卒の優秀層を採用できない
・中高年のぶら下がり人材が恒常的に発生する(『経営者が知っておくべきジョブ型雇用のすべて』 第2章見出しより抜粋)
そして今、これらのメンバーシップ型雇用の問題点を解決するために、ジョブ型雇用に注目が集まっているのです。
こうした大きな変化が生じる中、もし経営者が動かなければどうなるでしょうか。著者は言います。
最悪のシナリオは、ハードルの高さに怯んで変われないことです。その場合、日本企業の収益性、成長性は欧米企業と比較して低いままとなり、日本としての経済成長率も伸び悩むことになるでしょう。
(『経営者が知っておくべきジョブ型雇用のすべて』 140ページ)
変化の大きさに怯んで変えようとしなければ、収益性や成長性は伸びないまま ―― 。こう警鐘を鳴らしています。
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日本経済新聞によれば、今年7月、NTTデータは管理職約3000人を対象にジョブ型雇用を導入しました。また、富士通や日立製作所では、一般社員にもその対象を広げています(「NTTデータ、管理職3000人ジョブ型に DX事業に対応」/日本経済新聞電子版2022年8月4日)。
今後、日本の雇用形態はメンバーシップ型からジョブ型へと移行していく可能性は高いでしょう。その流れの中で企業が優秀な人材を獲得し、また優秀な社員の流出を防ぐためには、ジョブ型雇用のシステムの全体像を理解することが必要です。『経営者が知っておくべきジョブ型雇用のすべて』は、そのノウハウが詰まった本として、経営者や管理職の方に読んでいただきたい1冊です。
(編集部・小村)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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