2024.1.29

編集部:小村

1年で株価が2倍に!  今、注目を集める「日本一のホワイト企業」の経営哲学とは?

1年で株価が2倍に!  今、注目を集める「日本一のホワイト企業」の経営哲学とは?

 1年で株価が2倍になった銘柄のことを、業界用語で「ダブルバガー」というそうです。バガーとは野球の「塁打」のこと。ホームランを「フォーバガー(4塁打)」と表現するのをまねて作られたといいます。 

 日本経済新聞によれば、世界の時価総額50億ドル(約7000億円)以上の企業のうち、2023年末の時点でダブルバガーは112社。生成AI(人工知能)や半導体の需要が伸びたことにより、エヌビディアやメタなど、テクノロジー関係の企業が3割を占めています(「株価1年で2倍以上のダブルバガー、半導体が主導」/日本経済新聞電子版2023年12月29日)。

 

 一方、日本の企業にも、「ダブルバガー」として注目を集めている会社があります。岐阜県で電気設備資材などの製造・販売を行う、「未来工業株式会社」です。

 東証プライム上場企業の同社は、年180日(有給含む)の休日や、残業・ノルマの禁止、上司へのホウレンソウ(報告・連絡・相談)なしといった労働環境から、「日本一のホワイト企業」と評されています。

 注目されているのは、そうした労働環境が、効率的な働き方を生み出していることです。企業活動で生み出した付加価値を示す労働生産性は、2023年3月期で1人あたり1150万円となっており、上場企業の平均である900万円を上回ります。

 近年、人的資本経営への関心が高まる中で、社員を大切にしつつも高い生産性を誇る同社の取り組みに、市場の熱い視線が注がれています(「株価2倍の未来工業、マネー呼ぶ「日本一ホワイト企業」」/日本経済新聞電子版2023年12月27日)。

 

 未来工業の現在の社長は、4代目となる山田雅裕氏。ホワイトな労働環境は、雅裕氏の父である創業者の山田昭男氏の経営理念を受け継いでいるといいます。では、昭男氏の経営理念とは、どのようなものなのでしょうか。

 今回はそれを学ぶための本として、少し前の本となりますが、創業者である山田昭男氏の自著、『ホウレンソウ禁止で1日7時間15分しか働かないから仕事が面白くなる』(山田昭男/東洋経済新報社)をPick Upします。

 ホワイトな労働環境下で、生産性を高めることに成功した未来工業。その秘訣は、「常に考える」という企業理念と、短い労働時間にあることが、本書からうかがえます。

 まず、「常に考える」ということについて。この言葉は、未来工業のスローガンとして社内のいたるところに掲示されており、社員は常に目にするようになっているとのことです。常に考えるという言葉の意味するところを、著者の昭男氏は次のように語ります。

 

経営者や上司が命令しているうちは、自分の頭で考え、行動する社員は育たない。そんな当たり前のことが、管理優先の風潮の中で見失われている気がしている。

社員1人ひとりが自分の頭で常に考え、実行してみる。もし失敗すれば、すぐに改める。それをくり返し続けることで、はじめて考えることが身についてくる。

それが未来工業の考え方で、社内では「未来イズム」と呼んでいる。

(『ホウレンソウ禁止で1日7時間15分しか働かないから仕事が面白くなる』 2ページ)

 

 今より、少しでも良くできるところはないか? 社員1人1人が常にそう考える習慣を身につけ、実践していく。そうした積み重ねが、会社の生産性を高めていくのでしょう。

 そしてもう1つ、「短い労働時間」も、生産性を高める後押しをしています。本書のタイトルにもあるように、同社は勤務時間を8時間以内とし、残業もありません。そのため、社員は仕事を積み残さないよう日々のスケジュールを検討し、限られた時間で大きな効果をあげるよう、努力するのです。

 本書では、そうした効率化のコツの1つとして、職場で代々引き継がれている慣習の見直しを挙げています。例えば未来工業では、伝票の整理方法を従来のやり方から見直すことで、大幅に時間を短縮できたことを紹介しています。

 なぜこうするのかわからないけれども、これまで引き継いでやってきた方法だから同じようにしておく方が無難、と思いながら行う作業は、どの会社にも存在するでしょう。

 しかし、そこで立ち止まり、「このやり方のままでいいのか?」と問うてみてはいかがでしょうか。余分な時間をとるように思いますが、そこに大きなムダが隠れていることもあります。日常業務を見直すことで、もし1日15分の効率化がはかれたとしたら、1週間で75分、1カ月で5時間以上もの時間を浮かせることができるのです。

 さて、先述した未来工業の伝票作業の見直しは、社員の中から声が上がり実現したといいます。社員1人1人が「常に考える」という未来イズムによって、こうした改善が数多く行われているのでしょう。

 では、社員の自主性を引き出すには、どうすればよいのでしょうか。著者は、社長や管理職が頑張りすぎないことが大事だ、と言います。

 

中小企業の最大の欠陥は、社長が何事にもがんばりすぎてしまうこと。(中略)これは経営トップにかぎらず、部長や課長などの管理職も同じこと。

どんな職場でも上司ががんばりすぎると、部下の出る幕がなくなるので、優秀な部下が育たない。むしろ、上司の指示待ち人間ばかりが増えてしまう。

(『ホウレンソウ禁止で1日7時間15分しか働かないから仕事が面白くなる』 64ページ)

 

 未来工業では、指示待ちの部下を生まないために、「ホウレンソウ」を禁止し、また上司から部下への命令も禁止しているといいます。こうした職場において上司に求められる姿勢を、著者はこう説きます。

 

上司に大切なのは必要に応じて、部下を説得し、その仕事の必要性をきちんと納得させること。

(『ホウレンソウ禁止で1日7時間15分しか働かないから仕事が面白くなる』 66ページ)

 

 上司にしてみれば、部下が頼りなく見えてしまうのも事実。しかし、「常に考える」ことを意識すれば、自分が前に出て頑張ることが会社にとって果たして良いのか? という問いも生まれてくるのではないでしょうか。

 先述の未来工業を取り上げた日経新聞の記事によれば、同社は商品の値上げを行なった際にも、ノルマや一律の上げ幅を示さず、営業員の裁量に任せたといいます。他社の管理職の方々であれば、そこまで任せてしまってよいのか? と思うかもしれません。しかし、実際にこの方法によって、同社では事前に予想していた以上の上げ幅を達成しています。そして、この値上げが奏功し、24年3月期の連結営業利益は最高益の見通しだといいます。

 『ホウレンソウ禁止で1日7時間15分しか働かないから仕事が面白くなる』には、ご紹介した以外にも、創業者の山田昭男氏が未来工業で実践してきた仕事術の数々が収められています。

 人的資本経営の時代といわれる今日。経営者や管理職の方々にとって、社員の価値を最大限に引き出そうとする同社の取り組みからは、多くのヒントを得られるでしょう。

 なお、TOPPOINTライブラリーでは、今回紹介した本の他に、山田昭男氏の自著として『ドケチ道 会社を元気にする「生きたお金」の使い方』『毎日4時45分に帰る人がやっている つまらない「常識」59の捨て方』(いずれも東洋経済新報社)を掲載しています。氏の経営哲学をさらに詳しく知りたい方は、そちらもお読みください。

(編集部・小村)

*  *  *

 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2012年10月号掲載

ホウレンソウ禁止で1日7時間15分しか働かないから仕事が面白くなる

上司への「ホウレンソウ(報告・連絡・相談)」は禁止。残業も原則禁止で、休暇は年間140日。それでいて、1965年の創業以来47年間赤字なしという未来工業の創業者が、同社の成功の秘訣を語った。製品開発の権限や責任は担当者に与える、ヒット製品でも毎年何らかの改善を行う、等々の事例を挙げつつ、全社員が実践する「常に考える」仕事術を披露する。

著 者:山田昭男 出版社:東洋経済新報社 発行日:2012年8月
閉じる

ネット書店へのリンクにはアフィリエイトプログラムを利用しています。

他のPick Up本

他のPick Up本を見る