2024.2.5

編集部:西田

「再エネ礼賛」に潜む大問題 日本の国土と環境は守り続けられるか?

「再エネ礼賛」に潜む大問題 日本の国土と環境は守り続けられるか?

 1月29日、日本経済新聞が、法令違反の太陽光発電施設が違反を是正しないまま、稼働し続けている実態を報じました(「違法太陽光 2割是正せず」/日本経済新聞2024年1月29日)。この記事によれば、森林の無許可開発や許可条件違反など、法令違反を指摘された太陽光発電施設は少なくとも149カ所に上り、そのうちの2割近くが是正せずに稼働しているといいます。

 脱炭素の潮流の中、再生可能エネルギーが日本のエネルギー需給に重要な役割を果たすことは間違いありません。特に政府は、2030年度に再生可能エネルギーの比率を現行の倍となる36~38%程度とする野心的な目標を掲げており、中でも太陽光発電は、現在の倍程度となる14~16%程度の導入を目指しています(「「GX実現に向けた基本方針」を踏まえた再生可能エネルギーの導入拡大に向けた関係府省庁連携アクションプラン」令和5年4月4日/内閣官房HP)。
 ですが、政府が「再エネ推進」という旗印をかかげる裏で、日本経済新聞が報じたような問題が進行しているとしたら――。
 森林の開発に許可が必要なのは、水源の保護や土砂の崩壊防止などが目的です。そうした制度を遵守せず、無秩序に開発が進められたら何が起きるか、想像に難くありません。
 しかも、問題はそれだけではありません。
 今週は、こうした再エネ推進をめぐる問題について考えさせられる本、『サイレント国土買収 再エネ礼賛の罠』(平野秀樹/ KADOKAWA)をPick Upします。

 太陽光発電といえば、クリーンで環境にやさしいというイメージが先行しがちです。ですが、著者の平野秀樹氏は、そうしたイメージに反する実態を本書で描いています。
 例えば、ソーラーパネルの「処分」について。著者はこう述べています。

 

FIT制度による電力の固定価格買取の終了で30年代になると、市場価に近い価格でしか売れなくなるから、撤退する事業者が多数出てくるだろうし、ソーラーパネルの寿命は20~30年だ。以後は用をなさなくなる。
そうなると、膨大な産業廃棄物が30年代後半から出てくる。これは燃やして終わりという種類のゴミではない。正真正銘の産業廃棄物だ。
実際、総務省は実態調査を行い、環境省と経産省に対し、次のような勧告を出している。

太陽光パネルには、有害物質(鉛、セレン等)が使用されている。パネルの溶出試験の結果、基準を上回る有害物質(セレン)が検出された。2030年代半ば頃から使用済パネルが急増する(15年:約2400トン→40年:約80万トン)。(以下略)

(『サイレント国土買収』 96~97ページ)


 では、そのことがどんな問題を引き起こすのか。平野氏は次のように予測します。

 

30年代後半、もし運営していた法人と連絡がとれなくなり、ソーラーパネルの現場放置が増えていくとすると、どうなるか。水は高いところから低いところへ流れるから、ソーラーパネルの下流域にある河川、水田、畑は破損したパネルから流出する有害物質で汚染される。
そうなると当然、植物も動物も影響を受ける。

(『サイレント国土買収』 99ページ)

 

 平野氏は、ソーラーパネルが正しく処分されなければ、昭和の「公害」の再来になるかもしれないと指摘しています。
 前述の日本経済新聞の記事によれば、法令違反の状態が解消されていない太陽光発電施設は30カ所。そのうち、最初の行政指導・命令から1年超経過しているものは9割を占め、指導・命令後3年超経過しているものも半数強に上るとのことです。
 同記事においては、開発事業者へのインタビューも掲載されています。こうしたケースでは、事業者との連絡はきちんと取れているものと考えられます。
 一方で、指導・命令の後、時間が経てば、連絡を密に取り続けることが難しくなることも考えられます。是正措置が講じられないまま事業者が撤退し所在不明となり、後には劣化したソーラーパネルだけが放置される…。そんな最悪のケースも、決して絵空事ではないでしょう。

 さて、以上は太陽光発電施設自体についての懸念点ですが、本書では、もう1つ重大な問題提起が行われています。
 それは、「誰が再エネのために用地を買っているのか」ということです。
 これは、特定の個人による買収を心配するものではありません。平野氏が問題視するのは、「外資による国土買収」です。
 本書では、再エネ開発用地として日本の水源地や森林が、中国などの外国資本によって買収されている実例を膨大な取材をもとに描いています。そして、用地買収は日本国内のダミー会社を通じて行われるケースが多く、実際にどれだけが外資による買収なのか、全体像は政府でも把握できていない、とも。
 この状況に、平野氏は警鐘を鳴らします。

 

今日、CO₂削減やゼロカーボンという目標だけに目を奪われているが、生存インフラの外資化や国土の外資化が進んでいくと、安全保障や公の秩序の維持の観点からは、それらが脅威となることを忘れていないだろうか。(中略)ある日、突然母国からの指示で「送電ネットワークを閉じましょう」、あるいは「変電作業を中断しましょう」と伝達されたときにどうなるか。(中略)
つまり「国内に外資の発電所を設ける」ことは、「電力を海外から輸入している」ことと同じであり、相手国しだいでは、安全保障上ゆゆしき問題に発展する火種になる。

(『サイレント国土買収』 128~130ページ)

 

 こうした考え方に対しては、心配しすぎと捉える向きもあるかもしれません。しかし一方で、電力などの重要インフラや国土が一度失われてしまった時にどうなるか、という観点から、現状を考えてみることも必要でしょう。
 平野氏はそのことを、かつて存在したハワイ王国の運命になぞらえて伝えています。
 1795年に成立したハワイ王国では、当初外国人による土地所有は認められていませんでした。ところが、1850年に「クレアナ法」が制定され、外国人の土地所有が解禁されると、ドール社など米国のプランテーションが土地の買い占めを開始。わずか12年で、ハワイ諸島の4分の3を米国企業が占有するようになったといいます。最終的に法制定から48年後の1898年、ハワイ王国はアメリカに併合される形で消滅します。
 果たして、今から半世紀後の日本はどうなっているのか。
 「脱炭素」の美名のもと、国土が失われている――。そう説き、日本で現実に起きている国土買収の事例の数々を著者自らの足で追った『サイレント国土買収』は、再エネ礼賛の姿勢に対し、立ち止まって考える機会を与えてくれる1冊です。

(編集部・西田)

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 「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。

2023年8月号掲載

サイレント国土買収 再エネ礼賛の罠

日本の土地が、脱炭素の美名の下に外資に買い進められている! 太陽光や風力発電の開発用地として国土を切り売りし、エネルギーインフラの外国依存を強める日本。用地買収は離島や安全保障上の要衝にまで及ぶ。にもかかわらず、政府はその全貌を掴めていない…。静かに迫る亡国の危機を訴え、取るべき規制のあり方を示す。

著 者:平野秀樹 出版社:KADOKAWA(角川新書) 発行日:2023年6月
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