日進月歩の技術革新により、ビジネスモデルに大きな変化が起こっています。それに伴い近年叫ばれているのが、社会人の「リスキリング」や「学び直し」です。
報道などを見る限り、各企業はリスキリングへの意欲に燃え、社員もそれに歩調を合わせて取り組んでいるような印象を受けます。しかし、実際のところはどうなのでしょうか。
「学び合う組織に関する定量調査」と題された、パーソル総合研究所の調査レポートがWEBで公開されています(2024年2月7日公開)。全国の正規雇用就業者6000人の回答から明らかになったのは、「多くの企業で学びを共有する風土が無く、“学ばない組織”が維持されている」状況でした。
レポートによると、業務外の学習時間を「無し」と答えた調査対象者は、全体の半数を超える56.1%に上ります。その原因として、レポートは「学びは新人や若い人だけがやるものである」「経験だけが重要であり、学びは必要ない」といった、学びを遠ざける7つのバイアスがあることを指摘しています。それに加え、学習行動を行った人の過半数に、自分が学んだことを職場の他の人と共有しない「秘匿化」の傾向があることも明らかにしています。
*
こうした、学ばない組織があふれる状況の中、組織として学習能力を育むには、どうすればよいのでしょうか。
その参考となる本に、『学習する組織 システム思考で未来を創造する』(ピーター・M・センゲ 著/英治出版 刊)があります。環境変化に適応し、学習し、進化し続ける組織を築くための考え方と手法を提示した、世界で250万部を超す売上を誇るベストセラーです。
ただし、同書は約600ページの大著であり、内容も幅広く、ビジネス書を読み込んでいる方でないと読破するのが難しいと思われます。
そこで今回は、『学習する組織』の要諦をわかりやすく説いた入門書、『「学習する組織」入門 自分・チーム・会社が変わる 持続的成長の技術と実践』(小田理一郎 著/英治出版 刊)をPick Upします。
著者の小田理一郎氏は、『学習する組織』の翻訳者の1人。ナイキやVISAなど、多くの企業・組織で実践されてきたセンゲ氏の理論・手法体系を、自分の組織でどう活用し、組織をどう進化させられるか、具体的・実践的に考えるきっかけを与えてくれます。
まず、「学習する組織」とは、そもそもどのような組織なのでしょうか。『「学習する組織」入門』では、次のように定義しています。
目的に向けて効果的に行動するために
集団としての意識と能力を
継続的に高め、伸ばし続ける組織
(『「学習する組織」入門』 26ページ)
ここでいう「能力」とは、目的を達成するために、行為者が繰り返し行うルーティンのことです。そして「意識」とは、行為者がどの程度、現実世界や自身の行動、そして自身や集団の心の中で何が起こっているかに気づいているかの度合いをいいます。
個人的には、「意識」 ―― 何が起こっているかに“気づく”という点が、重要だと思っています。皆さんも経験がおありでしょうが、普段から繰り返し行っている仕事にもかかわらず、ある日「あっ、この手順はこうした方がよかったんだ」「この作業には、こういう意味もあったのか」と気づくことがあります。能力を真に発揮するには、そのように本当に求められているものが何かに気づくことが大事になるのです。
先述のパーソル総合研究所のレポートでは、「個人の学びに関する自己認識を高める」ことが、学ばない組織に有効な施策の1つとして挙げられています。具体的には、「自分の得意なことやスキルが何かを理解できている」「社会において自分の仕事がどのように見られるのかがわかっている」などですが、こうしたことも「意識」の重要性を示すものといえるのではないでしょうか。
*
学習する組織には、構造があります。その説明に用いられるのが、有名な「三本足の丸椅子」の図です(TOPPOINTの要約でも図を示していますので、ご参照ください)。
丸椅子の足となっているのは、中核的な学習能力を形成する「3つの力」と、それらの力を構成する「5つのディシプリン」です。ディシプリンとは、「実践するために学び、習得しなければならない理論と手法の体系」を意味します。
ここで椅子を比喩として用いている理由は、「3つの力を総合的に伸ばす」必要性を表すためです。どれか1つだけを伸ばしたのでは、椅子=学習能力は安定しません。
3つの力と5つのディシプリンは、次のように分類されます。( )内がディシプリンです。
- ・志を育成する力(自己マスタリー/共有ビジョン)
- ・複雑性を理解する力(システム思考)
- ・共創的に対話する力(メンタル・モデル/チーム学習)
(『「学習する組織」入門』 46ページ図より)
それぞれの詳しい内容は本書をお読みいただければと思いますが、個人的に大事だと考えているのは「共創的に対話する力」です。学びを「秘匿」する人の多いことを明らかにしたパーソル総合研究所のレポートでも、学ばない組織に有効な施策の1つとして、グループ・ディスカッションや勉強会といった「コミュニティ・ラーニング機会」の拡充を挙げています。「共創的に対話する力」を伸ばすことは、組織にとって何よりも重要ではないでしょうか。
「共創的な対話」とは、次のようなものです。
「共創的な対話」というのは、相手の意見をその人の立場になって聴きながら探求を深め、自分自身の思考について内省的に話すコミュニケーションのとり方です。
(『「学習する組織」入門』 49ページ)
「共創的に対話する力」を構成するディシプリンには、個人のレベルでは「メンタル・モデル」、組織のレベルでは「チーム学習」があります。このうち、私は「メンタル・モデル」を組織の中ですり合わせることが大事だと思っています。
メンタル・モデルについて、本書はこう説明します。
メンタル・モデルとは、私たちの心の奥深くに根ざした前提、一般理論、イメージまたはストーリーです。メンタル・モデルは、私たちがどのように現実の世界を解釈し、行動するかを決める際の思考の枠組みとして活用されます。
(『「学習する組織」入門』 192ページ)
例えば、私たちが「顧客はこんな商品を求めているんだろうな」と考えたり、「この商品のポイントをこう説明すればよい反応が得られるだろう」と考える時、それは私たちの中にそうしたメンタル・モデルが存在しているのです。
学習する組織では、この1人1人の無意識の前提となっているメンタル・モデルを検証するとともに、「チーム学習」によって組織風土や文化の中にある暗黙の前提を明らかにすることで、人々の行動を縛っているルールが何であるのか、また目的に照らして本当に重要なものは何であるのかを深く掘り下げます。そうすることで、物事やメンバー相互に対する理解を深め、未来に向けての選択肢を広げることができるといいます。
『「学習する組織」入門』は上記の3つの力と5つのディシプリンについて、理論だけを解説するのではなく、それに関する事例と演習についても収録しています。特に演習はグループで学ぶのに適しており、本書は勉強会のテキストに最適といえるでしょう。
また、本書を読んで次のステップに進みたいと考える人に向けて、「学習する組織」や、3つの力と5つのディシプリンに関する参考文献一覧が巻末に収められています。
*
さて、組織が「学習する組織」に向けて一生懸命取り組めば、組織はどんな状態になるでしょうか? 本書はこう説きます。
- ・風通しがよく、オープンに話し合う文化が根付いている
- ・それぞれがよく考え、聴き、話すことが習慣化している
- ・組織の中で目的、ビジョン、価値観とその意味が共有され行動に根付いている
- (中略)
- ・高いチームパフォーマンスが発揮され、それぞれがやりがいを感じて働いている
(『「学習する組織」入門』 29ページ)
オフィスでこうした光景を目にしたいと望むマネジャーや社員の方々は、ぜひ本書を手に取ってお読みください。
(編集部・小村)
* * *
「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
このPick Up本を読んだ方は、
他にこんな記事にも興味を持たれています。
-
危機を好機に変える! 運気を引き寄せる「7つの心得」を、田坂広志氏が説く
-
“ノーベル経済学賞”に潜むウソとは? 経済学に対する思い込みを市民経済学者が論破する
-
“世界で最も賢い投資家”スイスの銀行家たちの叡智が詰まった書