「120万9600秒」
この数字を見て、直感的に長いと感じるでしょうか、それとも短いと感じるでしょうか?
何とも曖昧な質問ではありますが、「長い」と答える人が多いのではないでしょうか。
例えば、この秒数を労働時間で計ってみましょう。1週間に8時間×5日働くとして、週の労働時間を秒に換算すると14万4000秒。120万9600秒というのは、その約8倍です。
これだけの時間があれば、たいていのことはできそうです。世界一周の弾丸旅行に行ったり、興味がある分野の勉強をしたり、長い間連絡を取っていなかった友人たちとの同窓会をセッティングしたり…。多忙なビジネスパーソンとしては、それぐらい時間があればやりたいことが全部できるのに、と(半ば諦めとともに)思うこともあるのではないでしょうか。
そんな120万9600秒ですが、実はこれを他の単位にすると、2万160分=336時間=14日。つまりこの数字は、2024年になってから昨日までの時間のことです。「たいていのことはできそう」なほどの長い時間が、年明けから既に経過しているのです。
ちなみに、365日(2024年は366日ですが)のうち14日が過ぎたということは、1年のうち4%近くがもう終わっているということ。2024年になってまだ間もない気がしますが、数字で見ると結構な時間が経っていることがわかります。
さて、年始に今年の目標や、やりたいことを決めた方も多いかと思います。○○の資格を取得する、読んでみたかったあの本を読破する、行ってみたかったあの観光地を訪れる…。
仕事に関するものもあれば個人的なものもあると思いますが、そうした目標や、やりたいことについて、次の質問に答えてみてください。
「これらのうち、何をどれぐらいできた/進められただろうか?」
いかがでしょうか。
「今週は仕事が始まったばかりで忙しかったので、来週からが本番」「平日は余裕がないので、土日にまとめてやろう」「年明けの1月は慌ただしいので、落ち着いたら頑張る」――そんなふうに、多忙の中で目標としたことが後回しになってはいないでしょうか?
明日こそ、来週こそと思っているうちに、気づけば120万9600秒が、そしてさらに多くの時間が過ぎていた。そのことに、いつも後になってから気づいて後悔する。なぜ自分は、こんなにも忙しいのか…。
そんな悩みを抱える方にお勧めしたいのが、今週Pick Upする『TIME SMART お金と時間の科学』(アシュリー・ウィランズ 著/東洋経済新報社 刊)です。
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本書の第1章は、次の言葉から始まります。
あなたが世界でも最貧層の1人である可能性は80%ほどある。
(『TIME SMART』 28ページ)
最貧層といっても、お金のことではありません。著者が言うのは「時間」についてです。2015年の調査によれば、アメリカの勤労者の80%以上が「時間が足りない」と答えたというのです。
お金やキャリアのためにやらなくてはならないことが多すぎて、時間が足りない――著者は、この状態を「タイム・プア(時間的に貧乏)」と呼んでいます。そして、タイム・プアな人はストレスが多く、生産性は低く、幸福感も弱い、と説きます。
その逆に、時間を手に入れて有意義に使っている状態を「タイム・リッチ(時間的に裕福)」と呼んでいます。
誰でも1日は24時間なのに、タイム・プアな人とタイム・リッチな人がいるのはなぜなのか。タイム・プアから抜け出し、タイム・リッチになるためには、どうすればよいのか?
本書は、耳が痛くなるような指摘の数々を通して、そのヒントを示してくれます。
例えば、隙間時間の使い方について。ちょっとした空き時間についスマホをいじり、SNSをチェックしてしまうことはよくあります。気づけば数分どころか、数十分過ぎていることもしばしば、という人も多いのではないでしょうか。
こうした悪癖ともいえる、時間を無駄にする行動について、著者はストレス発散などの価値はあると認めた上で、次のような対策を提案しています。
悪癖を打ち負かす方法の1つは、端的に理由を問うことだ。なぜ私はこれをやっているのか? と。(中略)
端的な理由の問いに対するあなたの答えが、「ただの暇潰し」や「たいした理由もなく」だったり、重大な危険信号となる、「わからない」だったりしたら、やっていることをすぐやめよう。(『TIME SMART』 142~145ページ)
また、著者は逆に、時間を「有意義に使う」ことに固執しすぎるのもよくない、と説きます。
人は時間を見つけてそれに投資するように努力し始めると、つまらない時間を有意義な時間で置き換えることに熱を上げ過ぎて、タイム・リッチな活動でスケジュールを埋め尽くしてしまいがちなことを、私は発見した。
(『TIME SMART』 147ページ)
これも、多くの人に経験があることではないでしょうか。
休日の朝早くに起き、運動をして、資格の学校に通い、地域の活動にも参加する。スケジュールを隙間なく詰め込んで、絶えず何かしら「有意義な時間」を過ごそうとする…。
やる気に満ちたそんな行動が長期的にもたらすのは、次のような結果です。
個人的な約束(そして仕事上の約束)を続けざまに予定すると、あまり楽しめない。まるで義務のように感じられてきて、スケジュールを守ろうとするとストレスが増す。
(『TIME SMART』 148ページ)
これは、ストレスが多く、幸福感も低い「タイム・プア」な状態そのものです。つまり、タイム・リッチに生きようとする努力が、逆にタイム・プアを招くこともあるのです。
この解決策として著者が勧めるのは、「ゆとり時間を許す(あるいは、予定する)」ことです。何かを「しない」ことが有意義な時間の使い方になり得るということは、忙しい時にこそ思い出したい指摘です。
これらのアドバイスのほか、本書はタイム・プアから抜け出し、タイム・リッチになるための方法を、5つのステップで具体的に解説しています。
書き込みができる、実践のためのワークシートも豊富で、順番に書き込んでいくことで「どんな活動に時間を使うのか、そのための時間をどこから捻出するか」に向き合うことのできる本になっています。
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著者は、本書の序章でこう忠告します。
私たちは年齢や学歴や収入とは関係なく、同じ現実を共有している。自分にどれだけの時間が残っているのかは、誰も知らないのだ。ある日、残り時間がなくなり、明日が訪れなくなる。(中略)私たちは、時間こそが自分にとって最も価値ある資源であり、それが有限であることを、よく理解していない。
(『TIME SMART』 9~10ページ)
その後に来るのは、次のような言葉です。
多くの人が、「働き続け、人生の目標を先送りし、死ぬまでにしたいことのリストの項目を毎年「来年」に回し、その挙句、時間を使い果た」してしまう――。
まだ2024年が始まって2週間しか経っていないのだから、と、私たちは考えがちです。ですが、明日からやろう、来週にはできる、と思っていると、その日は一生来ないかもしれません。
既に120万9600秒が過ぎたとはいえ、今年はまだ2880万秒=8000時間以上残っています。その時間をタイム・リッチなものとするために、本書を一読してみてはいかがでしょうか。
(編集部・西田)
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「編集部員が選ぶ今週のPick Up本」は、日々多くのビジネス書を読み込み、その内容を要約している編集部員が、これまでに『TOPPOINT』に掲載した本の中から「いま改めてお薦めしたい本」「再読したい名著」をPick Upし、独自の視点から読みどころを紹介するコーナーです。この記事にご興味を持たれた方は、ぜひその本をご購入のうえ通読されることをお薦めします。きっと、あなたにとって“一読の価値ある本”となることでしょう。このコーナーが、読者の皆さまと良書との出合いのきっかけとなれば幸いです。
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